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Intelの法則は家電の法則になるか?2004 International CES(1/2 ページ)

» 2004年01月11日 05時40分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 米国ラスベガスで開催中のInternational CES 2004。ここ数年、動きの激しかった家電業界だが、今年ほど興味深いトピックで埋め尽くされたショウも珍しいのではないだろうか?それらの中から、今後の動向を占う上でぼくが重要だと感じた二つの事象がある。今回はそのうちの一つ目を取りだしてみよう。

Intelの法則=PCの法則は家電に通用するのか?

 パソコン界においては、唯一絶対的な法則がこれまで存在してきた。それはムーアの法則。ムーアの法則は、そのままIntelの法則と言い換えてもいい。Intelは、自ら作り出した法則に従ってプロセッサを高速化し、自らの製品を駆逐することで、膨大な量のキャッシュフローを自ら生み出してきた。プロセッサが製品価値の大部分を占めてきたPC業界では、ムーアの法則=Intelの法則はPCの法則とも言える。

 しかしIntelの法則は“家電の法則”になるのだろうか? PC業界に身を置く人間ならずとも、Intelが得意の半導体製造技術を活かせるLCOSチップを売り込もうとしている点には注目せざるを得ない。というのも、米国ではリアプロジェクションテレビ(リアプロ)が、テレビ商戦の中心商材になっているからである。

 米国でのデジタルテレビは年率8%で伸びており、その流れは今後加速すると見られている。2007年には約50%の家庭がデジタルテレビを保有すると言われているほどだ。また、大画面を何よりも優先される魅力として捉えられている米国では、デジタルテレビの半分以上をリアプロが占めている。

 今、テレビ市場と言えばリアプロというのが、米国での状況と言える。同様に中国でもリアプロ需要の爆発が予想されている。それ以外の地域では、フラットパネルテレビが圧倒的な優勢になるが、巨大な二つの市場がリアプロに向かっているため、この市場でいかに大きなシェアを取るかを、従来からのAVベンダーだけでなく、多くのテクノロジ企業が考え続けているわけだ。

 Intelが参入したら、ひとたまりもなく、バーティカルな技術統合で製品を作り上げてきた既存を駆逐し、世の中から日本製品は閉め出される。もうこれからは家電もDellモデルの時代だ。Intelの発表は、そうした考えに帰結する可能性もある。実際、そのような判断を下すアナリストなどもいることだろう。

 しかし、それほど話は単純ではない。Intelの法則はそのままPCの法則だが、家電業界はPC業界とは異なるルールで動いている。Intelの法則が、家電の法則となるかどうかを判断するには、まだまだ足りない要素が多すぎる。

スペック指向の製品に向いたIntelモデル

 では、そもそもIntelの法則とはどんなものなのか。Intelのビジネスモデルには、様々な側面があるが、その一面を取り出してみよう。

 Intelが成功した背景には、IntelがPCベンダーに対してIntelチップを使った製品をくみ上げるために、適したツールや周辺デバイスを周到に準備し、手厚い技術サポートを施したことがある、と言われている。その範囲を徐々に広げ、様々な業界標準を作り上げることで、PCを構成する様々な技術を、いくつかの単純なエレメントに分離してしまった。

 加えて本来ならば、製品開発を行うPCベンダーが担うべき研究開発の一部をIntelが進め、それを供与し続けることで低価格化を主導してきた。IntelがPC業界で担う役割は拡大を続け、今では家電ライクなマルチメディアPCを、積み木をくみ上げるように設計できるところにまで来た、と言っても言い過ぎではないだろう。何しろ、よほどメカ音痴でもなければ、少し学習しただけで自作PCを作れてしまうのだ。

 こうした中では、PCベンダーごとの特徴は生まれにくい。PCベンダーは自ら技術革新を起こしても、有望な革新であればあるほど、Intelがそのキャッシュフローを活かして技術開発を行い、標準化を行って、テクノロジをばらまく。あっという間に先行者としての利益は失われてしまう。

 PC業界が紆余曲折する中で、現在のビジネスモデルに落ち着いた大きな理由は、PCが極端にスペック指向の強い製品だったことがある。PCはインストールするソフトウェアによって、機能や使い道が決まる製品だが、どのような使い方をするにしても、プロセッサ速度、メモリ、HDD容量などのスペックに強く依存する。言い換えれば、それらコンピュータとしての性能こそが、製品価値を決める第一要素になっている。

 単にWindows上でOfficeが快適に動作するだけでいいのであれば、優良ベンダーの遅いPCよりも、名もないPCベンダーの高速なPCの方がずっと上ということになる(もちろん、サポートやデザインなど、様々な要素も絡み合うが)。

 Intelは自社のLCOSチップを中心に、映像処理チップなどのペリフェラルや、最終製品を組み上げるための、いくつもの技術的な要素、アプリケーションを提供することになるだろう。製品やペリフェラルのサポート体制、ツールなどの詳細は2月に行われるIntel Developers Forumで明らかになると見られる。テレビとしてのバリューは、映像チップだけで決定付けられるものではないが(たとえばソニー以外の液晶プロジェクタには、どの製品にもエプソン製が使われている)、多数の家電ベンダーがIntelモデルを採用し始めると価格低下が市場を支配するようになるかもしれない。その結果、米国のテレビ市場を狙う日本のAVベンダーが沈没する、というシナリオは本当にあり得るだろうか?

 しかし、極端に悲観的になる必要なない。なぜなら、PC業界と家電業界はまったくカルチャーが異なるからだ。家電業界の秩序を崩すためには、カルチャーを変えるほどのパラダイムシフトが必要だろう。

PC市場と家電市場の相違点、類似点

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