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パラレルからシリアルへ――なぜインタフェースは転機を迎えたのか(2/2 ページ)

» 2004年03月18日 09時57分 公開
[宇野俊夫,ITmedia]
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 理由は明快だ。電気信号といえども有限の速度であること。そして高いクロック周波数=高周波信号の伝送においては、回路の引き回しパターンによって配線がコイルやコンデンサとしても機能してしまうという問題があるからだ。

 本来、電気信号の伝わる速度は光と同じ光速だが、システムボード(マザーボード)などプリント基板や導線などの中を伝わる場合、かなり速度が遅くなる。

 具体的には、光が真空中を伝わる速度はおよそ毎秒30万キロだが、回路中では3分の1程度の速度になることが分かっている。この速度、なかなかピンとこないが、コンピュータの尺度で少し計算してみれば、その意味がよく分かるだろう。信号は回路中を1秒間におよそ10万キロ進むことができる。つまり1億メートルだ。

 では、100MHzのクロック1周期、すなわち10ナノ秒の間には、どれだけ進むことができるのか? 答えは1メートルだ。言い換えれば、100MHzのクロック信号を伝えようとすると、1メートル先ではクロックが1周期分遅れるということになる。

 さらに、配線の引き回しによって、信号の中に含まれる各周波数成分ごとに伝わる速度が劇的に変化することを忘れてはならない。

 曲がりくねった配線なら、それはたちまちコイルと同じ状態になる。コイルは高周波信号を遅延させるため、信号の中に含まれる高周波成分の伝わる速度が遅れ、結果として波形ひずみを起こす原因となる。

 また、プリント基板やケーブルの被覆に使われる材料は、微小なコンデンサが多数接続されているのと同じ状態になる。コンデンサ成分は低い周波数成分を遅延させるため、やはり波形ひずみの原因となる。

 このように、配線の曲がり具合や距離、材質次第で信号線にコイルのインダクタンスやコンデンサの容量は変化する。だから、すべてのビットごとに信号のひずみ方や伝わる速度が変化してしまう。このことはまた、信号の送信に使われるドライバ回路のトランジスタにかかる負荷も変わるため、信号の立ち上がり具合やノイズの量も変わる。これがすべてのビットが伝わる速度が異なってスキューが発生する原因だ。

 では、スキューによる影響を受けない範囲で、たとえばFSB800のメモリインタフェースのようにクロック周波数の上限を上げずに高速化する道を模索できないのか?

 これに対しては、現実問題として64ビットのデータバスを2つ配線するだけで最低でも128本、制御信号も併せると140本近くになってしまうという問題がある。信号線が多くなり過ぎてしまうのだ。これだけ多数の信号の配線には、チップのピン数もそれだけ必要ということでもある。これはコスト面の問題や配線技術、発熱といった問題を生じる。

 メモリコントローラやI/Oコントローラのピン数の増大は非常に深刻で、ピン数を増やせばパッケージコストの上昇につながる。また、ピン数を増やせば、それぞれのピンに対応した信号を駆動するために要する電力もピン数に応じて増えるため、チップの消費電力=発熱量も膨大なものになってしまう。

 例えば、1ピンあたりの出力電流を15ミリアンペアと仮定してみると、100ピンあたり1.5アンペア、3.3ボルト駆動だとしても5ワット近くなるのだ。CPUが数十ワットなのだからという認識ではいけない。メモリコントローラやI/Oコントローラのピン数はさらに多く、実際にはすぐに数十ワットになってしまう。CPUより熱いチップはないほうがよいのだ。しかも、こうしてインタリーブするにしても、スキューによる限界があるため、あまり多くのインタリーブを重ねるわけにはいかない。

シリアル伝送への移行が問題を解決する

 こうした諸問題を一挙に解決する妙案は、現状ではシリアル伝送への移行以外に考えられない。これが冒頭で述べた多くのインタフェースがパラレルからシリアルへと移行しつつある理由なのだ。

 シリアル伝送では、原理的にスキュー問題による制限はほどんど考慮しなくてよくなる。ただし、信号を高速化していくと波形ひずみは無視できなくなるため、独自の工夫は必要になる。

 そのための技術の下地は、ハードディスクやDAT、CD-ROMドライブなどの内部で行われる読み書き信号の処理やギガビットイーサネットなど、高速シリアル伝送を行うさまざまなメディアで蓄積されている。

 例えば、PCI-Expressではシリアルデータを8B/10B変換することで、シリアル信号の周波数が高くなり過ぎて伝送途中で波形ひずみが生じることを抑えている。ただし、サーバ向けのFB-DIMMでは、PCI-Expressと同じシリアル伝送技術に基づきながら、配線距離を短くすることを前提に8B/10B変換せずに同じクロック周波数なら1.28倍高速化を図るなど、用途によって使い分けが行われる。

 時代はパラレルからシリアルへ。それは、パラレル伝送の物理的な限界、われわれが知る物理法則の限界への挑戦でもあるわけだ。

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