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100%正しいビデオカメラ論(2/2 ページ)

» 2004年04月07日 11時03分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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 だいたい幼稚園というのは年少、年中、年長の3学年しかないことが多い。クラスの数はまちまちだろうが、平均的にはその地域の小学校のクラス数よりも圧倒的に少ないはずである。

 何が言いたいかというと、少ない人数で運動会やおゆうぎ会などのイベントを昼間一日かけてやるわけだから、とにかく子供の出番が多いのである。親子で参加するものも含めると、もう1日中なにかやっていると考えてもいい。さらに子供が年中、年長と進んでいくと次第に親同士の繋がりも出てきて、クラス違うけど「誰々ちゃんのやつも撮って」と頼まれるケースも少なからず出てくる。

 標準バッテリーでは液晶モニタをONにして1時間弱というのが、今のビデオカメラの平均だと思うが、筆者の経験からいうと、それでは全然足りない。実際に何時間ぶんも撮影するわけではないが、イベントの段取りを事前に把握しにくいこともあり、スタンバイで待機という時間が結構長い。実際のシューティングは20〜30分ぐらいだろうが、標準の2〜3倍ぐらい長持ちする大型バッテリーが必要になる。

 予備のバッテリーをいくつか持っていればいいと考えるかもしれないが、それはお勧めしない。なぜならば、発表会みたいなイベント撮影では、唄など一度始まっちゃったら、途中で切ってバッテリー交換などできないからだ。1本で1日のイベントに耐える大型バッテリーが必要なのである。

「小学生期」撮影の条件

 幼稚園に比べると、小学校では自己完結型の行事が多くなるため、親が見に行けるイベントは激減する。入学式・卒業式を除けば、ほとんど授業参観と運動会ぐらいだ。学校によっては音楽発表会など文化系のイベントがあるところもあるが、基本的には「来ても構いません」程度のテンションである。

 なぜこうなるかというと、実は離婚率と関係がある。平成13年度国民生活白書によると、日本は先進国の中でも離婚率は低い方ではあるが、年齢的な内訳を見ると、若い層での離婚率が高い。また、その他の先進国では近年離婚率はさほど増減がないが、日本では1980年代末に一時的な減少が見られるものの、それ以降加速度的に離婚率が増えてきている。

 つまり今は、われわれ(40代)が小学生だった頃とは比較にならないほど、母子家庭が多いのである。当然母親が学校の行事に参加できない子供もいるため、学校としてもあまり積極的に親が参加するイベントを企画しなくなっているという事情がある。

 では小学校に上がる前は離婚しないのか、という疑問もあるだろう。そうではない。離婚自体は四六時中起こるわけだが、幼年期には幼稚園よりも保育時間が長い保育園があるので、母子家庭ではそちらを利用するのが一般的である。つまり義務教育になってすべての子供たちが一堂に集まると、こういう気遣いが必要になるのだ。

 さて、そんなこともふまえてのビデオカメラの条件だが、ここにきてようやくテレ端の数値が重要になってくる。グラウンドや体育館の距離から考えても、400ミリ以上は欲しいところだ。

 ただこれは、ズーム倍率と混同しないでいただきたい。ズーム倍率は、あくまでもテレ端÷ワイド端の値であるから、ズーム倍率はたいしたことなくても、テレ端で400ミリを超えるものもある。それはワイド端がもともと広くないからだ。すなわち昨今のカメラは、ほとんどがこの「小学生撮影レンジ」に入るわけである。

 その半面、バッテリーはさほど重要ではなくなる。幼稚園に比較すると、6学年ある小学校のイベントでは、自分の子供の出番は少ない。運動会など、1日グラウンドにいても、出る競技は3つぐらいだ。また親自身も幼稚園のときにさんざん撮っているので、撮影に慣れたというか飽きたというか、あまり余計なものを撮らなくなってくる。

オールマイティはあり得ない

 次は順番から言えば中学・高校期撮影の条件だが、あいにくながら筆者の子供はまだそこまで至っていないので、具体的な必要条件を挙げることができない。だが“人生の先輩たち”の話を総合すると、中学・高校ではカメラの性能よりもむしろ、「撮影者本人がエロじじいに見えないルックス」が最重要であるという。

 というのも最近では、中学・高校の運動会を撮影して“その筋”に流すような事態が発生しているからだ。おかげで、多くの学校では父兄が子供を通じて、事前に学校から撮影許可章を受け取っておかなければ撮影できないというシステムになりつつあるそうである。

 そんな中にあって、いかにもエロいですというルックスでは、いくら許可をもらっても心苦しいのは本人である。かといってあまり若作りしすぎると今度はアダルト業界関係者みたいに見られるわけで、なかなかバランスが難しい。このあたりに関するノウハウは、あと数年待って頂きたい。

 まあそんなわけで、子供の撮影というだけでも、とにかくいろんな条件があるわけだ。それを1台のビデオカメラで全部カバーしようと言うこと自体、最初から無理なのである。

 ビデオカメラのセールスも頭打ちになりつつあるが、このように子供の成長に合わせた具体的な機能の提案というのは、マーケティングの手法としてアリなのではないだろうか。また多くの条件は、ビデオアクセサリを付加することでフォローもできる。既にビデオカメラを持っている人に対しては、アクセサリに対する具体的な提案が、より明確に届くことだろう。

 プロの撮影でも、事前にどんなものを撮るかだいたい把握したのち、レンズを数種類準備したり、バッテリーの本数を考えて持っていくのが普通だ。コンシューマー・ビデオカメラの問題は、どんなスペックがどんな被写体の条件に合うのか、その具体的なカテゴライズを誰もやったことがないままに、「普通使い方知ってるでしょ」と言わんばかりに店頭に並んでしまっていることだと思う。

 そのあたりをしっかりやるメーカーやショップが出てきたら、ビデオ撮影はもっと面白くカンタンになるハズなんだがなぁ。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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