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ギョーカイへのなじみ具合を見分ける方法(2/2 ページ)

» 2004年05月10日 06時52分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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 言葉を喋るというのは、案外エネルギーを使う。特に筆者のように、ほっとけば2日でも3日でも黙っているような人間にとってみれば、よく分かるのである。言葉を発音する、特に最初の第一声を発音するには、“助走”があると楽だ。飛行機で言うところの、離陸滑走である。

 これはアクセントの位置を、エネルギーの集中ポイントと考えれば分かりやすい。例えばサーバーを「さあばー」と発音するためには、第一声目の「さ」に最大のエネルギーを集中させなければならない。すなわち口を開くと同時に、その最大エネルギーをがっつんと放出しなければ、発音できないのである。あまり使わない珍しい語句であればこのような発音もガマンできるが、頻繁に使用する語句であるほど、このように発音するのがだんだんかったるくなっていく。

 だから第一音節を助走代わりに使って、第二音節以降の発音の手助けとする。この方が、喋るのに楽だからだ。

 さらにこの論理を補強するために、助走さえあれば専門家アクセントも、正しい発音に戻るという現象も指摘しておきたい。例えばサーバーも、頭に「ビデオ」が付いて「ビデオサーバー」になれば、「サーバー」部分の発音は、正確なアクセントに戻る。そのかわり助走に使った「ビデオ」は、本来の「でお」と発音されず、「びでお」とアクセントの位置がずれる。

 もともとこれらは外来語、多くは英語なわけであるが、では英語圏の人も専門家であれば、イントネーションが変わるのだろうか。筆者は寡聞にして、そういう話は聞いたことがない。だがこれも、「発音エネルギー助走の法則」で説明できる。

 これら先頭にイントネーションを持つ単語は、名詞であるかぎり、ほとんどその前に「A」や「The」などの冠詞が付く。英語の文法では、発音の助走の役割を果たすものが冠詞としてルール化されているので、元々イントネーションを変化させる必要性がないのだ。外国人だって同じ人間である。口を開けたとたん全力では、疲れちゃうことには変わりないのである。

イントネーションと伝搬度

 逆にこの法則を利用して、新語がどれぐらい世間に浸透したかのバロメータとすることもできるだろう。例えば先週あたりから急激に広まりつつあるワーム「SASSER」。これは「サッサー」と読むそうである。普通に考えれば、「さっさー」と発音することになろう。だが人々がこれを「さっさー」と発音するようになった時点で、これは相当人の口に上っているという意味であり、被害も相当に出ているということになろう。

 この法則のポイントは、変化するのはおしなべて字面から先に入ってきた外来語であるという点にある。すなわち字面が先にあった言葉ほど、発音のセオリーがあいまいとなり、イントネーションの変化にも耐えうるという構造を持つからだ。

 元々耳から覚えた日本語などは、このような法則によって変化するには、相当な時間がかかる。姓名などもそうだ。例えば筆者の名字である「小寺」も、発音は「でら」であり、どんなに有名になろうと人から親しまれようと一生「でらさん」と、呼びにくそうに呼ばれ続けることだろう。ペンネームを「The 小寺信良」とかにすれば、多少は親しんで呼んでもらえそうな気もする。もっとも筆者の実家では自分たちを「こでらです」と名乗っているが、これは単に訛っているだけである。

 造語・新語でも、この法則から外れる例もある。ソニーのコンピュータ「バイオ」などはこれだけ人から知られても「ばいお」とは呼ばれない。ソニー社内では相当バイオバイオ言ってると思うが、今まで「ばいお」と呼ぶ人には会ったことがない。

 これは言葉の発生時点で、コマーシャルなどを通じて、字面と同時に発音までしっかり周知されてしまったからだろう。英語っぽい造語でも、耳から入った言葉は変化しにくいという例の一つだ。

 今後あなたが製品のネーミングをするような機会があれば、専門家イントネーション化しそうな名前を付けるというのも、一つの手だ。それがどれぐらい変化して呼ばれたかで、周知度がわかるのではないだろうか。

 新入社員がそれを専門家アクセントで呼ぶところを聞いて、密かにほくそ笑む、というのも、面白いかもしれない。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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