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変化し続けるスカパー!、その「将来性」は?(2/2 ページ)

» 2004年06月03日 10時06分 公開
[西正,ITmedia]
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 その後は東経110度CS放送の立ち上げなどで引き続き、プラットフォーム機能を発揮していくわけだが、スカパー!自体の成長という観点からすると、プラットフォーム機能による部分については、すこしずつだが限界が見え始めてきたことは確かだ。

 しかし、そうした加入件数の増加度合いが鈍化してきたことをもって、スカパー!自体の成長に限界が見えたと評するのは大きな間違いである。すなわち、現在のスカパー!は既に衛星デジタル多チャンネル放送のプラットフォームには止まらない方向に大きく前進し始めたからだ。

 日韓共催のサッカーW杯が終了した辺りから、スカパー!がソフトに投資することの意味合いは確実に大きく変わってきている。自主コンテンツの充実という形で、セリエAやプライドなど、数多くの放映権を獲得していることについては、プラットフォームとしての事業の延長線上にある。

 だが、放映権を獲得してくるだけでは、その後の展開が見込めないことから、「ワンソース・マルチユース」が可能な形となるようなソフト投資に注力し始めたことが見てとれる。

 国内でのアニメーションの制作や、話題の韓国ドラマなどの制作に対しての投資を活発に行い出したことに注目する必要がある。プラットフォームとしてのソフト投資とは異なる理由は、そうしたソフトの数々のリクープ(回収)をペイテレビの市場からだけ行うわけではないというスタンスに変わってきたからだ。

 もちろん、ペイテレビそのものにも使えるが、DVDとしてパッケージで売ることや、地上波局に対して放映権を売ることも考えている。さらには、コンテンツ不足が指摘され続けているブロードバンド市場への投入についても、当然のことながら視野に入っている(関連記事)。地上波民放も、強力な局は、既に映画やDVDへの投資を活発化させている。映像ビジネスで成功するためには、ワンソース・マルチユースを目指していくのが、最大の近道である。

 スカパー!の連結決算の黒字化(関連記事)は、そうした方向性にアクセルを踏みやすくしたことも明らかだ。黒字になったことによる資金を、次なる収益の増加に結びつけるために、ソフトへの投資を強化できるようになったからである。

 コンテンツアグリゲーターとしての機能を強化し始めたスカパー!に対して、引き続き、加入者数の増減などにスポットライトを当てて見ていたのでは、企業価値を見誤ることになるのは明らかだ。ソフトへの投資を積極的に行っていると言っても、W杯の放映権を取りに行った時と今とでは、その狙いや意味合いは大きく異なっている。

 コアとなる事業は引き続き着々と進めていきながらも、その周辺事業領域に進出していき、事業規模を大きくしていくことは、ゴーイング・コンサーンとしての企業経営の基本中の基本である。有線役務利用放送事業としてのオプティキャストの展開を見ても、もはやスカパー!が単なるプラットフォーム事業に止まらなくなっていることは明白なはずである。

 それにもかかわらず、相変わらずペイテレビ市場はどこまで拡大するのかとか、スカパー!の加入者はどの辺りが上限なのかといった予測をベースにして、熱心に議論している人たちがいる。そうした議論によって、どのような解答が導かれるのかは分からないが、そのような解答が出る頃には、もはやスカパー!は“そこ”にはいないということになるだろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、潟IフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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