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出口の見えない「上り拡張ADSL」の取り扱い(1/3 ページ)

» 2004年06月18日 15時35分 公開
[佐藤晃洋,ITmedia]

 6月11日にTTC(社団法人情報通信技術委員会)で行われたTTC・DSL専門委員会スペクトル管理サブワーキンググループ(SWG)の第12回会合は、DSL関係者の間では注目の会合だった。

 というのも同会合では、この半年間、議論が続いてきたADSLの上り帯域拡張方式(以下EU方式)の取り扱いに、一応の結論が出ることが期待されていたからだ。本来は合議制によって運営されるはずの同会合だが、議長を務める池田佳和氏(東京工業大学教授)は会合を前にして「場合によっては表決による決定も辞さず」との意向を表明。今回こそは何らかの結論が出ると参加者の多くが期待していた。

 しかし約10時間に及ぶ同会合では結局表決は行われず、表決の舞台は上位委員会であるDSL専門委員会に持ち越しとなってしまった。一応2週間後をメドに引き続き、合意形成のための議論は続けられるという。だが、果たしてなぜ表決は行われなかったのか。また、本当に表決によって何らかの結論は出るのだろうか?

上り帯域の範囲をめぐって依然埋まらぬ、SBBとイーアクセスの溝

 EU方式の取り扱いを巡っては、そもそもソフトバンクBB(SBB)やアッカ・ネットワークス、長野県共同電算(JANIS)らと、イーアクセス・TOKAI・NTT東西らの間でその考え方に大きな差があることは以前もお伝えした通りだ。基本的に現在も両者の姿勢には変化はないが、議論が長期に渡り、しかも問題が一向に解決する気配がないことから、ここにきて暫定的な基準作りで妥協しようという動きが出てきた。

 その結果行われたのが、5月28日に急きょ再開されたDSL事業者間協議だ。同協議に参加した前述の7社による議論の結果、JANISが以前から主張する「ADSLを利用したテレビ放送のために必要な、G.992.1 AnnexAで下り4Mbpsの伝送性能を確保できる制限」という基本的な考え方に、NTT東日本らが妥協する形で賛同を表明、6月11日のSWG会合ではこれを具体的な距離制限や収容制限等の形に落とし込む形で暫定的な合意を目指す作業が行われることになったのだ。

 その結果、距離制限の考え方としては、SBBの提出した「現行のJJ100.01・第2版の計算ルールに従い、EU方式が存在する環境下でもG.992.1 AnnexAが上り4Mbpsの伝送性能を確保できる距離を基準とし、安全マージンとしてそこから500メートルをマイナスした値」という考え方にJANISを除くほとんどの参加者が同意。具体的な制限値は表1の通りとなるが、いわゆるEU-64方式(上りは276kHzまで使用)の場合に線路長制限は2.25キロという計算になり、この点については事実上妥協が成立した。

方式名 上り帯域の上限 距離制限
EU-G 276kHz 2.5km
EU-G2 276kHz 2.5km
EU-TIF36 155.25kHz 2.75km
EU-TIF40 172.50kHz 2.5km
EU-TIF44 189.75kHz 2.5km
EU-TIF48 207kHz 2.5km
EU-TIF52 224.25kHz 2.5km
EU-TIF56 241.50kHz 2.5km
EU-TIF60 258.75kHz 2.25km
EU-TIF64 276kHz 2.25km
EU-36 155.25kHz 2.75km
EU-40 172.50kHz 2.5km
EU-44 189.75kHz 2.5km
EU-48 207kHz 2.5km
EU-52 224.25kHz 2.5km
EU-56 241.50kHz 2.5km
EU-60 258.75kHz 2.25km
EU-64 276kHz 2.25km
EU-96 414kHz 2km or 使用不可
EU-112 483kHz 1.75km or 使用不可
EU-S96 414kHz 2km or 使用不可
EU-S112 483kHz 2km or 使用不可
 表1 EU方式と距離制限。スペクトル適合性確認結果報告書(2004/6/4)を元に筆者が独自に作成(斜字は争いのある部分)

 しかし基本的な考え方では妥協が成立したものの、上り帯域の上限をめぐっては依然両陣営の溝は埋まらない。

 SBB陣営はあくまで「上り拡張は下りの高速化のためには必要だが、それ以上の意味はない」との考え方から「上りは276kHzまでに制限すべき」との考え方を示す一方、イーアクセス陣営は「今さら上り3Mbpsではユーザへのインパクトは少なく、どうせやるなら上り5Mbpsぐらいにしないと意味がない」(イーアクセス・小畑至弘CTO)との考え方から「483kHzまでの拡張を認めるべき」との意見を堅持。引き続き対立が続いた。

JJ100.01の改版作業が終了しなかった場合の取り扱いは?

 そしてもう一つの大きな対立点は「JJ100.01の改版作業」に関するものだ。

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