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「地デジ専用テレビ」の登場をどう見るか(2/2 ページ)

» 2005年02月11日 14時43分 公開
[西正,ITmedia]
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 BSデジタル民放はケーブルテレビで再送信されることになるだろうが、それでも3000万台が限度だろう。まして、先に述べた価格差の問題まで考慮に入れれば、3000万台イコール3000万世帯になるわけではないという状況も予想される。

 広告放送として成り立っていくには、地上波の媒体価値=視聴世帯数に近づけていくことが近道だが、その地上波はほぼ1億台で見られることになる。それを考えると、引き続きBSデジタル民放と地上波の媒体価値の格差が縮まることはない――という現実が早くも見えてきてしまったのである。

 まして、一般の家庭では、別に「地デジを見たい」とは思っていないケースも多いだろう。大半は、アナログ放送が終わって“しまったから”、“やむを得ず”デジタル放送に移行するのである。その程度の考え方でテレビを買い替えるとすれば、そうした世帯の大半は地デジ専用機に買い替えるに違いない。

BSデジタル、110度CSの魅力をアピールしようにも

 デジタルテレビとしての価格差は少々あるにしても、BSデジタル放送や110度CS放送が見たいので、2台目以降も三波共用機に買い替えようという動きを促すには、コンテンツの中身でアピールしていくしかない。

 しかし、今のところそのための材料は、HDの映像で差異化を図ることということぐらいだ。だが、そもそも地デジ専用機のうち、HD化されているものがどの程度あるのかという部分が不透明なままである。

 基本的には、むしろSDだろう。そうすると、HDで送られてくる映像をダウンコンバートして、SDで見ることになる世帯が多くなるかもしれず、HDの映像をアピールしようがないということになりかねない。110度CSについても、124度・128度のスカパー!チューナーを地デジ専用機につなげて見てしまえば、それで済んでしまうこともあり得る。

 そもそも、HD放送が始まった時期に、プラズマや液晶の薄型テレビが出てきたため、それらがHDであると勘違いされているケースも多い。ところが、プラズマや液晶でも小型サイズの製品の場合、HDではなくSDだし、アナログしか映らないのである。これでは、HDの魅力をアピールしようにも、あまり大きな効果は期待できないことになる。

 もう一つの大きな問題は、新RMPを使った地デジ専用機の場合は、価格は確かに下がるのだが、RMPを使うことによってB-CASが使われなくなるため、著作権の保護はできても、BML(Broadcast Markup Language)は盛り込まれないということになる。双方向性サービスがないというだけで、価格は大きく下がることになる。ただ、双方向性などいくつかのデジタル放送の特性が生かされることはなくなってしまうだろう。

 BSデジタルが始まる前には、双方向性サービスの魅力が散々喧伝されたわけだが、広告収入が伸び悩む中で、テレビ本編に注力するのが精一杯になってしまった。地デジの場合には、さすがにカバー率が違うこともあって、本格的な双方向性サービスの登場が期待されたわけだが、そうした期待にも暗雲が漂い始めるという情勢になってきている。

 地デジ専用機の登場は間違いない。価格面での強みは圧倒的だ。しかしながら、アナログのテレビについても、白黒テレビの登場に始まって、カラーテレビへの買い替えが急速に進む中で、「価格」という問題は当初こそ大きな障壁になったが、いつの間にか消えてしまった経験則もある。

 ここは、BSデジタル、110度CSの両陣営にコンテンツ戦略での奮起を促したいところだ。HDや双方向性はなくとも、優良なコンテンツさえ並んでいれば、視聴者は着実に増えていくことも忘れてはなるまい。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「モバイル放送の挑戦」(インターフィールド)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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