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「番組審議委員会」を形骸化させないためには何が必要か?西正(2/2 ページ)

» 2005年11月17日 20時52分 公開
[西正,ITmedia]
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十分に機能しているケースもある

 とはいえ、すべての番組審議委員会が形骸化しているわけではない。審議委員も真面目に放送番組の質の向上のために前向きな意見を言い、放送事業者も次回の開催までの宿題として持ち帰るケースも見られる。

 なまじ、そういった実のある番組審議委員会も存在することを知っているだけに、すべての放送事業者が前向きに取り組みさえすれば、日本の放送文化はさらに向上していくに違いないと思うのである。

 筆者も加わっている番組審議委員会の中にも、放送事業者が真面目に取り組んでいるだけでなく、委員の一人一人が本来的な使命感を意識して時には厳しい意見を述べられている場がある。

 もちろん委員の中には放送の専門家も入っているが、普段は一視聴者であると同時に、多様な職業に就かれているだけに、そうした他ジャンネルで活躍されている経験を基に本当に傾聴すべき意見を述べられる方は、まさに制度趣旨を理解した発言をされているのである。

 放送事業者の立場からすると、もちろん放送番組の質の向上を忘れているわけではないのだが、どうしても視聴者数、加入者数の拡大が優先されてしまうため、審議の対象番組として、そうした2つの目的のボーダーラインにあるようなものを選んでくる。当たり障りのない番組を対象として、雑談して食事会になだれ込むのに比べれば、放送事業者自身のモラルの高さもうかがえるのだが、きちんとした使命感をもって委員となっている方からの指摘は非常に厳しい。

 例えば、映倫規定上は問題視される番組は、深夜帯を選んで放送しているのだが、その程度の対応では不十分であるのかもしれないと、放送事業者から審議の対象番組として提案されてくることがある。それに対して委員からは、「この番組を深夜帯に限って放送していることは問題がないかと問われているようだが、もう既に深夜帯に流しているのでしょう。それならばわれわれの意見を聞く前に、ある種の決断をなされているということではないですか。われわれが深夜帯も問題であるという結論を出した場合は、今行われている放送を止める覚悟はあるのですか? それとも、この場で承認してもらって、それでお墨付きは取ったということにしたいのですか? そんな姿勢で対象番組を提案してきているのだとしたら、非常に不愉快であるし、むしろ断固として反対する」というくらいのことは放送事業者に突きつけられる。

 そこまで言われてしまうと放送事業者の方も困った顔になるのだが、さすがに番組審議委員会に真摯に取り組むだけのことはあって、「反対のご趣旨は分かりました。次回の審議会の開催までの間に、社内で対応を検討させて頂くことにします」という答えが返ってくる。その場限りの言い逃れではなく、本当に次の審議会までに社内で議論した結果をフィードバックしてくる。

 そこで示される結論は、「やはり深夜帯に限って放送しようということになりました」と、必ずしも委員の反対の声が通るとは限らないが、通らなければ、引き続きその問題についての議論が続けられることになる。

 そして、数多くの番組審議委員を拝命した経験から言うと、番組審議会での声に真摯に対応している事業者ほど、結果的には多くの視聴者、加入者を獲得している。

 逆に、各界の著名人を委員に指名してお手盛りで済ませているような事業者には弱体化している例も多く見られる。

 視聴者の声を聞くといったことはよく耳にするが、本当にそれをやろうとしたら大変な作業になる。番組審議委員の顔ぶれは必ずしも著名人をそろえる必要はないのであって、多様な職業に就かれている方を選ぶ方が、番組審議委員会を開催する意義は大きいと思う。ある意味では、多様な視聴者の声を代弁してくれることが期待できるからである。

 あとは、放送事業者側が総務省に義務付けられているから適当に開催しているというスタンスを改め、少々はムカっとする声にも耳を傾けるだけの度量を持つようにすべきである。

 地上波、BS、CSと多チャンネル化してきた放送業界も、いよいよ強者と弱者に二分化していく段階を迎えつつある。番組審議委員会の在り方について再考してみるのも、強者として勝ち残っていく上では、大いなる一助となることを自覚しておくべきであろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs 放送!次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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