ITmedia NEWS >

スポンサー対策――民放テレビ番組を広告モデルでネット配信する時の「意外な課題」西正(1/2 ページ)

» 2006年02月23日 14時34分 公開
[西正,ITmedia]

民放テレビ番組の制作費を拠出するスポンサー企業

 地上波民放が広告費収入で成り立っていることは、今さら説明を要しないものの、番組の制作費もスポンサー企業が拠出していることを忘れてはならない。

 基本的なところから整理すると、テレビ広告費には大きく分けて、タイムとスポットの2種類がある。タイム広告は番組の放送中に流れるCMのことで、その番組自体もタイム広告スポンサーが出している。一方、番組と番組の間に流されるのがスポット広告であり、こちらは基本的には特定の番組への関与は少ない。

 基本はそうなっているが、実態としてはタイム広告費だけでは制作費が間に合わないということで、スポット広告費収入も番組制作費に充てられている。それはテレビ局側の事情であり、番組との関係が深いのはタイム広告費の提供スポンサーである。

 よく「この番組は○○の提供でお送りしております」とアナウンスが入るが、その○○がタイム広告費の拠出元、つまり番組制作費を負担した企業である。

 特定のスポンサーが制作費を出した番組を、別のスポンサーをつけて放送する際には、当然のことながら相当な気を遣う。地上波でもドラマなどはファーストランの後、1回ないし2回は地上波で再放送される。その再放送時からして、スポンサーを選ぶのには苦労するのである。ファーストランの時のスポンサーが再放送時にもスポンサーとなってくれれば苦労はないが、再放送時の時間帯を考えると、ゴールデンタイムをターゲットに広告出稿してくれるスポンサーにとって余り魅力がないため、別のスポンサーを探してこなければならなくなる。

 簡単に言えば、ファーストランの時のスポンサーがトヨタ自動車であった番組を次に使う時に、日産自動車のCMとセットにするわけにはいかないのである。基本的には競合する会社のCMを付けることは非常識であると考えられている。それは、制作資金まで出したスポンサー企業の心情を考えれば、当然の配慮とさえ言える。

 そうした苦労は、番組が1社提供の場合の方が大変なようであるが、複数社の提供であっても競合関係にあるスポンサーのCMを付けないように配慮するのは、広告放送というモデルを採る限り、最低限のマナーとも呼ぶべきことである。

 2回目以降の放送の際、制作時のスポンサーと競合しないスポンサーを見つけてこなければならないのは、簡単なようでいて非常に大変なことのようだ。制作時のスポンサー企業の事業がシンプルなものであればまだ楽なのだが、多角化が進んでいる企業の場合には色々なところに競合事業者がいるからである。例えば、「イヒ!」のCMでおなじみの旭化成になると、繊維、医療、サランラップ、建材、住宅など、非常に幅広い事業展開を行っている。旭化成と競合しないスポンサーを見つけようとしたら、なかなか大変な作業になるだろう。

 広告モデルでビジネスを行うことの難しさは、単純に視聴者を大勢集めて、広告媒体としての価値が高いことを証明するだけでは済まされないところにある。そう考えると、再利用の方法としてはペイテレビ事業者に番組の放送権を売って、有料ビジネスを展開してもらえるようにする方が楽であるに違いない。

ネット配信のビジネスモデル

 テレビ番組をネット配信するためには、関係した著作権者、著作隣接権者(以下、著作権者たち)の許諾を得る必要がある。

 今のところ、民放各社はネット配信の許諾が取れた番組を、ISP事業者などにVODのコンテンツとして提供している。それらは有料視聴である。有料で配信されている限りは、制作時に協力してくれたスポンサーに対する配慮も容易である。

 ところが、仮に広告モデルでネット配信を展開していこうと考えると、放送の再利用の時と同じ苦労をしなければならなくなる。民放キー局5社と電通が組んで、共通のポータルを持ち、そこから番組のネット配信を広告モデルで行うことを検討しているという。広告モデルの難しさを知り抜いた顔ぶれなので、スポンサー対策がどのように行われるのかが注目される。

 USENの「GyaO」のように、動画のネット配信といってもテレビ番組を使わない段階では、広告モデルを採ることの課題は、広告効果を高めることに集約されるだろう。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.