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IPTVという概念の整理と形態西正(1/2 ページ)

» 2006年04月06日 20時29分 公開
[西正,ITmedia]

IPTVの概念を巡る混乱

 竹中大臣の私的懇談会での議論では、しばしばIPTVという概念が混乱して使われている。すなわち、IP方式で地上波を再送信する話と、IPTV一般のVODまで含めた話が、入り組んで議論されている。

 極論すれば、東京キー局の番組を地方で見られない状況は是正すべきではないかという議論があっても構わないと思うが、それは今の放送局を取り巻く前提、すなわち免許制度の在り方を覆す話になるので、それならそうと明確に問題提起をするべきである。

 しかし、より優先順位の高い問題として、IP方式により地上波を再送信できるようにすべきだとの文脈の中で語られてきた経緯からすると、IPマルチキャストの方式であれば、それは今の地上波の再送信の話となり、あくまで地域性を確保することが大前提になる。ところが、件の懇談会のメンバーの人たちは、その地域性を確保しようと考えること自体がそもそもおかしいと言っているのだ。

 そうなると、IPマルチキャストという技術を何のために、どこまでの範囲で使うのかという説得力が薄れていかざるを得ない。

 本来の地方局の使命は、中央集権ではない地域からの情報発信を活発化させるためのものである。実態は確かにキー局への依存度が非常に高くなっているが、そもそもの設立経緯を知らずに、東京キー局の番組が地方で見られないことはおかしいとか、それはローカル局の既得権益だと決めてかかっていたのでは、議論になっておらず、非常に上滑りな印象が拭えない。

 元々はローカル局のデジタル化投資負担の軽減のために、衛星による再送信であるとかIP方式による再送信が、補完的な配信手段として提案されることになったのだ。ところが、肝心のローカル局までがIP再送信とVODの違いについて混乱し始め、今やIP再送信に対しても敬遠する姿勢を見せる局が増え始めている。

 IPTVの概念をきちんと整理して、本来のエリアを守るためのマルチキャスト技術であることを、ローカル局の人たちには理解してほしいところである。もちろん、衛星やIP方式による再送信ではワンセグ放送が受けられなくなるということで拒否反応を見せているところもあるようだが、今までのケーブルテレビによる再送信であっても、ワンセグ放送が受けられないことに変わりはない。あまり勝手なことを言っていると、それなら自力で全ての設備投資を行うべきだということになりかねない。

IPTVについての整理整頓

 概念的に言えば、IP方式で映像を配信するビジネスというものが最大の母数としてあり、その中にはPC端末向けに送られる物もあれば、テレビ向けに送られる物もあって、帯域も画質も様々である。同様に圧縮方式も様々である。そういう意味では、確かに一口にIPTVと言っても、色々な物が混在していることは間違いない。

 ウィンドウズのメディアプレーヤーのようなものも含め、ワールドワイドの規模で、なおかつ多用な形態で存在しているから、混乱が起こるのかもしれない。

 提供されるコンテンツも、非常にリッチな物からプアな物まで幅広い。ビジネスモデルとしても、有料の物、無料広告モデルの物、すなわち、ある種の視聴認証が必要な物から、全くフリーで世界中に流れている物まで色々とある。

 そこから各々の性格に応じて少しずつ狭めていくが、現段階で比較的、共通認識を持たれているIPTVとは、IP方式によってテレビ端末向けに比較的高画質の映像コンテンツを流すものの総称、として把握されている。

 そして、ある種クローズドなネットワークの中で契約者だけが視聴できるものもあるが、地上波系の放送事業者がIP再送信と呼んでいるのはそれよりさらに狭い範疇であり、地上波の放送をリアルタイムで流すサービスを、IP再送信と認識している。

 地上波のサービスであるのだから、当然それぞれの地域がサービスエリアとして限定される。もちろん、電波が県域を越えるという事情はあるにしても、基本的に県域免許の中でサービスをしている放送番組をリアルタイムに再送信するというのが、いわゆるIP再送信の議論である。

 一方、IPTV全般の中には、IP再送信とは異なり、リアルタイム性とは無縁のVOD的サービスも存在する。あるいは、特定エリアを拠点として全国に向けてヤフーが提供しているようなサービスにおいても、ある一定の編成をして配信される物もあれば、マルチキャストではないユニキャスト的な物まで含まれてくるというニュアンスである。

 また、IPTV全般の中には、いわゆる電気通信役務利用放送法に基づく放送サービスもある。ヤフーのBBTVであるとか、KDDIの光プラスTVとか、オンラインティーヴィ・4th Mediaのように放送的なサービスとVODをセットで提供していくスタイルも見られる。VODサービス単体で考えれば、別にマルチキャストである必要性はまるで無い。

 つまり、マルチキャストでリアルタイムの放送を再送信し、電波で受けられる放送と全く同じものがIP上に流れるのが、IP再送信だということになる。

 もちろん、BBTV、光プラスTV、オンラインティーヴィにおいても、マルチキャスト方式で今のサービスの上に地上波の再送信を乗せることは可能なわけであり、それが可能になるように今、技術的な問題を詰めている状況にある。

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