「Windows vs Mac」という図式は、いつの時代にも世の中を騒がせるネタの一つだ。OSのバージョンが上がれば、どっちが優れているかが争点となり、新しいハードウェアが出ればどっちが速いかが争点となる。
もともとMacintoshというコンピュータの出自が反IBM互換機であるわけだから、常に比較していくということが、アイデンティティの確立として重要な意味がある。しかし今年2月のIntelプロセッサ搭載Macの発売と、両OSの起動を許容する戦略により、過去のWindows vs Macの確執を知らない世代のWindowsユーザーも、次第にMacに興味を持ち始め、また実際に購入している例が増えてきている。どちらが優れているか、という論争は、多様性を許容する世の中では、もはや無意味な物になりつつあるのかもしれない。
Macのシェアを示すデータはいろいろあるが、最新の調査では米IGMが今年2月、Mac OSのシェアとして発表した4.28%という数字がある。まあだいたいこれが、Intel Mac発売以前の最終シェアということになるだろう。
OSのシェアでこの数字というのはかなり少数派であるわけだが、なにも熱心なMacユーザーだけでこの数字を支えているのはではない。Macを専用機器として使っている業界の存在は、小さくないはずある。
日本においてはその代表的なものが、出版業界である。Macでは古くからプリンタに対する親和性をうたっており、またカラーマネージメントにも積極的に取り組んできた。またアウトラインフォントの充実や、イラストなど図版の作画能力、写真のレタッチなど、出版に関わるソリューションが加速度的に充実していった。
書類印刷のようなレベルではWindowsでも可能だが、書籍の出版ということになればイメージセッタへの対応が必要であり、そこはまだまだMacの天下である。
実はこれと似たような事が、一時期映像業界でも起こった。
1991年に登場した動画フォーマットQuickTimeの登場により、Macで動画を扱うというソリューションがスタートしたのだが、当時は画質面でもハードウェア面でも、プロフェッショナル市場への進出は見えていなかった。だが当時ベンチャーであったAvid社がMacintoshを使って、映像コンテンツの制作にかかせないオフライン編集システムを開発し、ノンリニア編集の幕を開けた。
このAvidを初めとするMacを使ったノンリニア編集システムは、次第に画質向上を果たし、ついに本番の編集で使えるまで発展した。95年から98年ぐらいまでが、Macの映像編集のピークであったろう。だが1996年にMicrosoftがWindowsNT 4.0を発売したあたりから、徐々に風向きが変わってきた。
Mac OSも、ビデオ編集環境のみで固定しておけばそれほど不安定でもなかったのだが、実作業をすべてコンピュータ上で行なおうとすれば、そういうわけにもいかない。さまざまなアプリケーションを併用することで、安定性を問題視する声が大きくなっていった。
映像業界のユーザーが注目したのは、WindowsNT 4.0の安定性である。もちろんWindows95の発売により、Windowsユーザーが圧倒的に増えたという下地はあったと思われるが、98年にAvidがWindows対応を表明したことで、映像業界でのMac離れが一気に加速した。
またその頃までにはAdobeがPhotoshop、AfterEffectsといった、映像業界でも頻繁に使用されるソフトウェア群のWindows移植を完了していたのも大きかった。そしてやれることベースで考えた場合、トータルコストでMacはWindowsの2倍近く高かった。
その原因のほとんどは、メモリの価格であった。当時のMac OSはメモリの管理が下手で、各アプリケーションへのメモリの割り当ては、ユーザー自身が手動で行なわなければならなかった。デフォルトで設定されているメモリ値もあるにはあったが、プロが快適に感じられるようなヘヴィは作業では、デフォルト値は全く無意味だ。そのためユーザーは、湯水のごとくメモリを使ってデータをメモリ内に展開し、実行速度を上げなければならなかった。
それに加えて、アップル、IBM、モトローラと協業で作り上げたCPU「PowerPC」が、映像処理に求められる方向性と合わなかったこともあるだろう。G3登場以前のPowerPCは、低消費電力と効率の良さをうたうプロセッサであったが、映像処理に対して劇的に速いというわけではない。
その頃Windowsはと言えば、IntelとAMDの競合により、消費電力や発熱をモノともせず、果てしない高速化へのチキンレースへ邁進しつつあった時期であった。またデュアルプロセッサ化の技術も速くから実用化しており、これらのチカラワザが加速度的にベースバンドへ近づく画像処理へのニーズと、マッチしたのである。
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