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楽天はなぜWeb2.0のプラットフォームになれないのか(下)ネットベンチャー3.0【第7回】(2/3 ページ)

» 2006年09月08日 16時00分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]

簡単・安価なEC ASPサービスの登場

 そして環境変化の第2の要因は、安価なECのASPサービスが次々と登場し始めていることだ。たとえばpaperboy&co.(ペーパーボーイ)は、2005年2月から「Color Me Shop! pro」というサービスをECの小売店向けに提供している。最低月額875円という驚くべき低価格で、ブログやモバイルショップ、メールマガジン、RSS、ポイント機能などを基本料金の枠組みで利用できる。またオプション料金を支払えば、クレジットカード決済なども可能になる。

 またソニーコミュニケーションネットワーク(So-net)は、ブログ上にショッピングカートを埋め込むことができ、エスクローサービスで決済を行えるブログツールを今年10月からスタートさせると発表している。こうしたオンラインショップ向けASPサービスの価格破壊と拡大によって、楽天が大きな売り物にしていた「誰でも安価に簡単にオンラインショップを開店できる」というアドバンテージも、徐々に希薄化していく可能性が出てきている。もちろん今のところ、多くの中小・零細小売店は相変わらずネットのリテラシーがあまり高くなく、自力でサイトをドライブさせる能力は乏しい。しかし検索連動型広告やSEO、ブログ、アフィリエイト、さらにはドロップシッピングなど新たなWeb2.0サービスが次々と登場し、そうした新たな枠組みを使うことで売り上げを飛躍的に伸ばすことができるという成功モデルが、あちこちで紹介されるようになってきている。そうなれば、今後は急速にリテラシーが上がっていく可能性は高い。

 そうなると、楽天は今後「中抜き」されてしまう可能性もあるのではないか。楽天を「中抜き」し、Web2.0ツールを使ってショップと消費者が直接結びついてしまうということだ。

 つまるところ、楽天が急成長してきた要因は、次の2つだ。

  • ポータルによる巨大な集客力
  • 小売店が使いやすい安価なECシステム

 これらがWeb2.0とASPのローコスト破壊によって、揺らぎはじめているというのが現在の楽天の問題なのである。端的に言えば、楽天というプラットフォームの魅力が薄れてきているのだ。連載の前回、「プラットフォームになろうとすれば、技術やビジネスモデルで圧倒的に他社に優位に立たなければならない」と書いた。プラットフォームとしての優位性があるからこそ、消費者からも企業からもアテンションはそこに集まってくる。

楽天がとらわれる“2つの呪縛”

 だから楽天が行うべきは、プラットフォームの優位性をさらに高める努力を行うということだ。ところが同社は、なぜか逆の方向性に突き進もうとしているように見える。同社は従量料金制への転換を行った2002年以降、次々と値上げをショップ側に迫っている。2003年には、楽天ポイントとアフィリエイトの報酬の負担を楽天からショップへと変更し、さらに2004年にはそれまで従量制料金は徴収していなかった売上月100万円以下のショップに対しても、売上高の4%のシステム料を取るようになった。プラットフォームの優位性が揺らいでいるのにもかかわらず、しゃにむにニューエコノミー的収穫に走っているように見えるのだ。

 市場を支配した後、値上げをして利益を収奪する――このニューエコノミー的手法は、かつてはきわめて有効だった。たしかに1990年代にはこうした手法がもてはやされ、その最大の成功モデルであるマイクロソフトに追いつけ追い越せと、多くのネットベンチャーが真似をした。だがその後登場してきたGoogleは、このニューエコノミー的収奪を根底からひっくり返した。市場をプラットフォームに制覇した後も、囲い込みによって利用者から利益を徴収するのではなく、「広告」という新たなビジネスモデルを持ち込むことによって収益力を安定させ、まったく別のパラダイムを作り出したのだ。その新たなパラダイムこそがWeb2.0であり、Web2.0によってネット業界は初めて、ニューエコノミーの呪縛から解き放たれたといってもいいかもしれない。

 楽天は、いくつもの呪縛にとらわれている。ニューエコノミーの呪縛だけではない。そこには、ポータルビジネスの呪縛もある。

 ポータルビジネスの考え方の基本は、ポータルサイトを立ち上げてできるだけ多くの消費者を集め、それらの人々にモノを買ってもらったり、さまざまなサービスを利用してもらうというビジネスである。成功要因は2つあり、ひとつはポータルの知名度を上げて集客することであり、もうひとつはポータルのサービスラインアップを広げ、集まってくれた消費者への満足度を高めることだ。たとえば堀江前社長時代のライブドアは、さまざまな企業を買収してラインアップを増やし、そして前者のため、本の刊行やプロ野球参入表明などの知名度アップ作戦をさまざまに繰り広げた。その知名度アップの最終形態として、テレビ局の持っている「リーチ率100%」という圧倒的パワーに目をつけ、ニッポン放送買収に手を伸ばしたのだった。

 楽天も同様に、証券会社や検索ポータル、旅行サイトなどを次々と買収することによって、ポータルサイトの「ジグゾーパズル」を埋めることに腐心してきた。ゆりかごから墓場まで、ではないが、いかに人々の求めているサービスのラインアップを増やし、ジグゾーパズルのピースを埋めていけるかどうかが、ポータルの勝敗を分けると考えられていたのである。ライブドアや楽天が2002年から2005年ごろにかけて猛烈な勢いでM&Aを繰り返した背景には、そうしたDNAがあったのだ。

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