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レコメンデーションの虚実(8)〜株価予測は集合知が衆愚化しない希有なモデルだソーシャルメディア セカンドステージ(2/2 ページ)

» 2007年10月29日 14時00分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]
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集合知とリアルのしあわせな融合

 その答は簡単だ――人々の統計結果そのものが、真実であるようなモデルを考えればよいのだ。例えば流行や株価などがそうである。母集団が大きくなって、その母集団に属している人々がそのトレンドや株価を支持すればするほど、そのトレンドや株価の正しさは相乗的に高まっていく。

 例えば「みんなの株式」というSNSは、その考え方を具現化したサービスである。ベンチャー企業のマスチューンが2007年4月にスタートしたこのサービスは、株式の銘柄ごとに「買い」や「売り」の予想投稿ができるのが特徴だ。またこの予想と、現実の株価の動きをリアルタイムに連動させ、予想の精度をポイント化して、予想した利用者たちのランキングを表示する機能もある。このランキングを見れば、株価予想の精度が高い利用者が一目で分かる仕組みだ。さらにこの予想を集計し、注目度の高い銘柄を一覧表示する機能もある。

 株式市場に参加する全員で決めている株価というのは、(1)のモデルに最適だ。人々が予測している株価こそが、真実の株価になっていくからである。もしこの「みんなの株式」が巨大化し、利用者数が増えていけば、この集合知モデルがそのまま株価を作り出すということさえ可能になる。インターネットの集合知とリアルの幸せな融合である。

 とはいえ株価は、人々の集合知の統計結果とは言うものの、インサイダー情報や風説の流布などに左右されやすく、だからこそ一握りのアナリストにコントロールもされやすかった。「みんなの株式」は、この部分をうまく乗り越えている。参加者は、自分が提供した情報をもとに他の参加者がフォロワーとなって株を買ってくれれば、株価が予定通り上がっていくことが期待できる。つまりは参加者全員が株価をコントロールするアナリストとなることが可能なのだ。

スパムはソーシャルメディアの仕組みによって防ぐ

 さらに言えば、風説の流布やインサイダー情報を流した参加者は、SNS的な仕掛けによってはじかれる仕組みができあがっている。SNSでは、情報は参加者個人にアイデンティファイされている。だから真面目に儲けたい人に対して、それを妨害したい人がいたとしても、そこで嘘を書いて妨害しようとする人はすぐに信用されなくなり、攻撃も受けるようになって、誰からも情報を読まれなくなってしまう。SNSによってスパムを防ぐ仕組み作り出していると言えるのだ。

 もともと株価の予想というのは、専門家である証券アナリストの特権的ビジネスだった。「アナリストが株価を作る」という言葉があるように、アナリストが「売りだ」と言うと、株価は急落する。アナリストはほかにない秘密の情報を握っていると思われているから、その情報のパワーをもとに株価をコントロールできてしまっていたわけだ。情報はアナリストと、彼らが顧客としている機関投資家だけが独占していたのである。しかしインターネット時代に入って情報の量が加速度的に増え、株式に関する情報はアナリストだけのものではなくなった。いまやアナリストも個人投資家も、持っている情報はそんなに変わらなくなった。

 そうであれば、個人投資家が持っている情報や知見を持ち寄れば、専門家であるアナリストの情報力に匹敵するパワーとなりうるのではないか――というのが、「みんなの株式」の発想である。このサービスを運営しているマスチューンの瓜生憲社長は、もともとメリルリンチ証券やゴールドマン・サックス証券などで敏腕アナリストとして鳴らした人だ。情報を独占していたアナリストが、情報をオープンに向かわせる集合知ビジネスへと向かったのは非常に興味深い。

 彼は以前、私の取材に対してこう話している。「利用する側と提供する側の境がなくなっていくというのが、僕のWeb2.0理解です。そうなってくるとおそらく、人がどのように貢献をしていくのか、その貢献の価値のとらえかた自体も変わってくるだろうと思うんですよね。日本は国土が狭くて成長には限界があるのだから、やっぱりそんなふうに人の価値を高めていくのが方向としては理想的だと思うんですよ」

関連キーワード

集合知 | SNS | Web2.0 | コミュニティー


佐々木俊尚氏のプロフィール

ジャーナリスト。主な著書に『フラット革命』(講談社)『グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する』(文春新書)『次世代ウェブ グーグルの次のモデル』(光文社新書)など。インターネットビジネスの将来可能性を検討した『ネット未来地図 ポスト・グーグル次代 20の論点』(文春新書)を10月19日に上梓した。連絡先はhttp://www.pressa.jp/


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