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マスメディアとインターネットの対立関係は、どこへ向かうのか(3/3 ページ)

» 2008年01月05日 12時00分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]
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コンテンツ有料化では成り立たないマスメディア

 第2のハードルとなるのは、収益源となるコンテンツが、どこから生成されるのかという問題だ。例えば動画の世界で、YouTubeはテレビ番組コンテンツのオープン化を一気に推し進めた。これまで放送局がコントロールし、リビングルームで観られるものだった番組コンテンツを放送局の管理から解き放ち、自分のパソコンでいつでも好きなときに観られるスタイルを生み出したのである。これらのスタイルは明らかに著作権法違反であるが、しかし日本ではYouTubeで見逃した番組を視聴することが普通の生活にすっかりなじんでしまっており、もう後戻りはできないところにまでやってきている。

 そうなると問題は、本来は著作権ホルダーが得られるはずだった逸失利益をどう処理するのかということになる。この逸失利益がきちんと著作権ホルダーに還元される仕組みが作られなければ、著作権ホルダーとインターネット世界の対立構造はなくならないし、Win-Winの関係も築けない。対立しているだけでは、永久に状況は進まないように思われる。ではどうすれば良いのか。

 コンテンツがロングテールの世界に呑み込まれてしまうと、そのままでは収益へとつながらない。となると選択肢は、(1)有料化するか、(2)Google広告モデルを導入するか、(3)プラットフォームを目指すか、(4)マジックミドル圏域でのビジネスを狙うか――。

 しかし現状では、コンテンツ有料化では現行のマスメディアビジネスはそのままでは成り立たない。例えばテレビCM市場は日本国内だけで年間2兆円ある。これをすべてIP化し、仮に視聴者からのペイメントだけで賄おうとすると、単純計算では国民ひとりあたり年間1万7000円。4人家族なら7万円だ。現実的な金額ではない。またGoogle広告モデルを導入すれば、先ほども書いたように母集団の比較的小さい日本では収益力が悪化してしまう可能性が大きい。さらに言えば、広告費から電通や博報堂が中抜きしていた部分を、米国企業のGoogleに抜かれてしまうことにことになる。これは国策として正しいのかどうか。

日本に適したマスメディアとネットの補完関係確立を

 となると残る選択肢は、何らかの新しい広告プラットフォームを打ち立てるのか、それともマジックミドル圏域にターゲティングした新たなビジネスモデルを模索するのか、といったあたりを現実的な選択肢として考えていかなければならないということになる。とはいえ、日本の新聞社やテレビ局はノーアイデアだ。いやそもそそも、そうした発想さえ持っていない。そうしてオールドメディアとネットの対立構図は相変わらず解消しない。

 しかし、そろそろそういう悠長なことを言っていられる時期は終わりに近づいている。アメリカでGoogle/YouTubeとテレビ局などの著作権ホルダーが歩み寄りを始めているように、日本でも日本の市場規模や市場の特異性に沿ったかたちでインターネット業界とテレビ局、新聞社が何らかの補完関係を形成しなければならない時期に来ている。

佐々木俊尚氏のプロフィール

ジャーナリスト。主な著書に『フラット革命』(講談社)『グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する』(文春新書)『次世代ウェブ グーグルの次のモデル』(光文社新書)『ネット未来地図 ポスト・グーグル次代 20の論点』(文春新書)など。雑誌連載に加筆した『起業家2.0 次世代ベンチャー9組の物語』を最近上梓した。連絡先はhttp://www.pressa.jp/


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