前回は、ペンや紙を使う方法や、言葉やイメージを活用する方法を紹介してきたが、今回は質疑応答や対話による方法を中心に紹介する。
今回紹介する手法 |
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1紙に書き出す |
2図で表す |
3絵を描く |
4ジオグラフィ |
5人に話す |
6インプロシンキング |
7たとえを使う |
8イメージする |
9タイトルをつける |
10象徴するものを見出す |
11魔法の杖 |
12誰か宛てにメールを書く |
13問いかけを変える |
14場所/位置/席を替わる(時間軸/空間軸を変える) |
15誰かを想定して質疑応答をする/誰かになりきって答える |
物事を行う際に、人は通常、以下のように問いかけをします。「1、事実は何か」。すると、答えとして大抵、資金がない、人材がない、アレがない、ウチはこうだ、などといった事実関係が挙がります。次に、「2、事実による制約は何か」と問いかけます。すると、「資金がないから、映像を使わずに文字だけにしよう」とか、「50までやりたいけれど20にしておこう」という感じで、制約を意識します。そして最後に「3、では、その制約の中で何ができるか」と問いかけます。すると、「この資金だったら、コレとコレしかできないね」というようなネガティブな思考経路をたどります。
確かに、資金も人材もあって制約がないなど、事実が良い状態だとなんでもうまくいくのですが、悪いとすぐ低迷してしまい発想も行き詰まってしまいます。
創造性を広げる方法では、事実はちょっと脇に置いておいて、次の順序で考えます。
「本当は感覚すべてに訴えかけられるようなコンテンツを作りたい」、「感動するだけじゃなくて、読んだ直後に仕事に活かせるようにしたい」など、本当はどうなりたいかを、まず考えます。
次に、そうはいっても事実を無視することはできませんから、ここで事実をたくさん挙げてみます。「2、事実は何か」というと、資金がない、人材がわずかしかいない、などがありますね。
そして、「3、いわゆるネガティブと思われていた事実かもしれないけど、これを生かしてできることはないだろうか」と考えます。その資金と人材を生かしてできることは何だろうか、という発想です。
最初から、それは無理だ、といってしまわないで、「本当はこうなりたい」「何の制約もなかったら、どうしたいか」を考えましょう。また、事実にはプラスとマイナスの要因がありますので、それをすべて出していきます。こういう事実があるけれど、これを生かすからこそ実現することは何だろう、と発想することです。
時間軸と空間軸を変えると、別の視点から物事を見ることができます。例えば、「ネットを使ったビジネスモデル」を考えているという設定で、斎藤さんの時間軸を変えてみましょう。
平本 斎藤さん年齢はおいくつですか?
斎藤 32歳です。
平本 じゃあ、部屋の端に立ってください。そして部屋の真ん中くらいが、32歳の位置だと思ってください。生まれたときは、どんな子供でしたか?
斎藤 やんちゃな男の子でした。
平本 生まれた頃、パソコンやネットはありましたか?
斎藤 いいえ。
平本 では、少し前に歩いてください。ここは小学校・中学校頃です。どんな感じでしたか?
斎藤 遊んでばかりでした。
平本 この頃、パソコンとかネットはありましたか?
斎藤 小学生のときに、パソコンを触っていました。
平本 早いですね。その頃、自分にとってパソコンはどんなものでしたか?
斎藤 ネットはまだありませんでしたが、パソコンは、いろんなことができるおもちゃでした。
平本 では一歩進んで、大学生です。どんな大学生でしたか?
斎藤 アルバイトばかりでした。
平本 その頃、パソコンやネットは?
斎藤 授業で使いました。ネットは面白かったです。
平本 何が面白かったのでしょう。
斎藤 周りにいる人だけじゃなくて、遠い人にまでも情報が出せる。当時、自分のホームページも作りましたし。
平本 例えば、こういうところで出てくる「遠い人に向けて」というのは、後でアイデアのヒントになるかもしれませんね。また一歩進んでください。大学を出て、どうしましたか?
斎藤 雑誌を作っている出版社に就職しました。
平本 どんな自分でしたか?
斎藤 人に何かを伝えられるのが、とても楽しい、と思っていました。
平本 では、また一歩進んで、今の会社に入ってください。そのとき、自分にとって、ネットやパソコンは、どんなものでしたか?
斎藤 まだ、作り手側だけの存在です。ものを作って、誰かがそれを読んでくれる。読んでもらえて、うれしいな、という感じです。
平本 では、一歩進んで、(32歳の)現在にきてください。現在、ご自身にとって、ネットやパソコンはどういう存在ですか?
斎藤 読んでもらうだけじゃなくて、それをどう仕事にしていくかを考えていかなくてはいけない舞台、です。
平本 では、前に進んで、10年がたちました。そのころパソコンやネットはどうなっていると思いますか? 夢みたいなことでも、鉄腕アトムみたいなことでも。あのやんちゃな子供の頃を思い出して想像してみてください。
斎藤 モノというよりは、自分と一緒になっている感じがしています。
平本 身体に埋め込まれているとか、ですか?
斎藤 埋め込まれているとまでは言えませんが。例えば、時計は身につけて持ち歩いていますが、そんなものに近いでしょう。コンピュータやネットがすぐそばにあるのが当たり前の世界ですね。
平本 ──なるほど。さて、こんな風に時間軸を追うことで、すぐ活かせるとは限りませんが、アイデアのヒントが出てきませんか? 10年後から見て、10年前(現在)の斎藤さんに、「例えばこんなビジネスモデルがあるんじゃないの?」と提案できる。いい加減なことでもいいのです。「身に付けるもので何か考えたら?」とか「遠くの人に向けて何か考えたら?」「アレに代わるんじゃないの」など、色々考えてみてほしいですね。
今度は空間軸を変えます。例えば、同じように迷っている斎藤さんがいるとします。アフリカの人、またはアマゾンのジャングル中にいる人から見て、日本にいる斎藤さんは、どう見えるでしょうか。あるいは、グーグルの社長だったら、日本の斎藤さんが考えていることに対して、どんなことを言いそうでしょうか。
このように、あの人の立場から見たらどうだろう、と人を変えてみることで、空間軸を変えることができます。もしくは、上空1キロメートルからみて、あそこで悩んでいる人はどう見えるか、など物理的な距離を変えてみる方法もあります。時間軸や空間軸を変えて自分の発想の枠をはずすことにより、視点を変えて視野を広げることができるのです。
歴史上の人物や著名人になりきって質疑応答をしてみましょう。あの人だったら、こんな問題ちょちょいのちょいで答えるだろう、という人。例えば、坂本竜馬がここにいたとしたら、あっという間に解決、とか、ビートたけしだったら、こうじゃないか、など。身近な人や上司など利害関係にある人ではなく、有名人なんかがいいです。自分がアインシュタインだったとしたら、どうですか(笑)
また、複数で、「じゃあ、俺、エジソン、A君はアインシュタイン、B君は、ダ・ヴィンチ、C君はニュートン」のように、それぞれになりきって会話や質問をしてみることもできます。「ニュートン君は、この考えについてどう思う?」みたいな感じですね。ただし、その業界の有名人、尊敬されている人など、お互いに知っている人物などが適しているでしょう。
最初にお話したとおり、創造性を広げるためなので、きちっと考えるのではなく、楽しい気分、ポジティブな気分になることが大事です。「俺は無理だけど、ニュートンだったら余裕だよ」みたいに、一瞬でもいいからできる気分になってほしい。そして、普段やらないことですから、視点が変わって視野が広がっていくことでしょう。
ピークパフォーマンス 代表取締役
平本相武(ひらもと あきお)
1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。
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