部下のモチベーションを上げるコミュニケーション(5)コミュニケーションをワンランクアップ!(2/2 ページ)

» 2006年09月27日 12時27分 公開
[平本相武(構成:房野麻子),ITmedia]
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マッチング&リーディングの例

 次の例を見てください。

上司 (早口ではつらつと)「最近、どうしたの!」

部下 (ゆっくりとした口調で)「実は、先月ダンナがちょっと入院しちゃって。この間、プロジェクトが2、3件、かたまってあったじゃないですか。あれが、ちょっと辛かったんですよ」

上司 「いや、でも、がんばってたよね!」

部下 「いや〜、でも今頃ちょっと疲れが……」

上司 「いやいや、よくやったよ!」

部下 「あれがすっかり終わったあとなんで、ちょっと気が抜け……」

上司 「いや、でもちゃんとできたと思うよ!」

部下 「いや……」


 これはダメですね。モチベーションが下がっている人に、やる気を出させようとしていますが、マッチングができていません。

 では、次の例はどうでしょう。

部下 (ゆっくりとした口調で)「先月、ダンナがちょっと入院しちゃって、そのとき、案件が、ちょっとかたまってたもので……」

上司 (ゆっくりとした口調で)「かたまってたんだ」

部下 「今頃ちょっと、気が抜けちゃったんですかね」

上司 「気が抜けちゃったんだね」

部下 「ちょっと、がんばり過ぎちゃったかな〜って」

上司 「そうなんだ〜」


 このように、まずマッチングを取っていきます。では、続いて──。

部下 「でも、実はA社とB社は、自分が思ってたより、なんとかうまくいったので……」

上司 「そうだね。うまくいったよね」

部下 「ええ、まあ、だから今ちょっと安心している感じもあって」

上司 「安心している感じもあるんだね」

部下 「だから、今は集中力が欠けてしまって、C社がちょっと難しい感じで……。まだバランスがうまくとれない感じなんですよね〜」

上司 「なるほどね……A社とB社がうまくいったって言ってたけど、具体的にどういう点で?」

部下 「A社は担当の●●さんとうまくコミュニケーション取れたので……」

上司 「あ、●●さんとうまくコミュニケーション取れたんだ」

部下 「はい、そこだけはちゃんとやろうと思って」

上司 「そうなんだ」

部下 「それが良かったんだと思います」

上司 「それが良かったんだね。では、B社の上手くいった点は? もうまくいったんだよね」

部下 「B社のほうはですね──」


 この例のように、うまくいった部分と、うまくいっていない部分がある場合には、うまくいっていない話ばかりしていると、もともと元気のなかった部下がさらに暗くなってしまいます。でもうまくいっている部分があって、それを本人が言い出したら、そちらの方をまずは集中して聞いていきます。すると本人はうまくいった方をたくさん話すことになるので、結果的に少しずつ前向きな良い状態になってくるのです。このようにいい状態をつくってから、その後で課題の話に移っていく。このようにマッチング&リーディングで、相手のいい状態を引き出します。

 これを頭ごなしに、「AとBがうまくいってるから、いいじゃないか」と、信頼関係を築く前にやってしまうと、次のようになります。

部下 (静かな口調で)「先月、ダンナがちょっと入院してたもので……」

上司 (大きな声で)「いや、A社とB社はすごく、うまくいってたじゃん!」

部下 「まあ、うまくいったんですが、すごく辛かったんです」

上司 「いや、でもA社はすごく良かったよ」

部下 「でも……C社の方が」

上司 「いやいや、だってB社もうまくいったんでしょ!」

部下 (だんだん声が大きくなる)「でも、気が抜けて、今、あまりC社がうまくいってないんですけど!」

上司 「いや、A社もうまくいってるじゃない!」

(だんだん言い争いの雰囲気になってくる)


 このようなマッチングのないリーディングは、いくら事実だとしても、心理的に抵抗を受けてしまいます。次に、もう1つ悪いリーディングの例をお見せしましょう。みなさんも気がつかずに、やっているかもしれません。

部下 (静かな口調で)「先月、ダンナが入院しちゃって。プロジェクトがかたまっていて結構辛かったんです」

上司 (静かな口調で)「辛かったんだ、そっか〜」

部下 「ええ。もうホントに眠れないし、家に帰ったら病院に行かなきゃいけないし……」

上司 「病院に行ってたんだ」

部下 「まあ、でもA社とB社は、結果的にはうまくいったんで、自分としては、ちょっと安心してるかな、という感じですね。ただ、C社の方が今、ちょっと大変になってきていて……」

上司 「C社、大変なんだね」

部下 「集中力が、ちょっと欠けているんですよね〜」

上司 「集中力が欠けちゃってるんだ」

部下 「ちょっと、気持ちのバランスがとりにくくなっている感じなんです」

上司 「バランスが取りにくくなっちゃったんだ」

部下 「結構、ヤバイですよね〜」

上司 「確かにヤバイね」

部下 「ここからどうやって抜けたらいいのか、自分でもわからない状態で、ぐるぐる回っちゃって……」

上司 「抜けられないのはつらいよね」

部下 「一歩を踏み出すのが……」

上司 「踏み出せないんだね」

部下 「ウチの部署、今、人が足りなくて……」

上司 「人も足りないし……」

部下 「誰に相談していいのか……やっぱりC社は無理そうな気がしてきました……」

上司 「は〜……C社ダメなんだ、やっぱり」


 この例だと、マッチングはしていますが、そのままネガティブな点にばかりマッチングし続けているので、モチベーションは上がらないどころかどんどん下がっていってしまいます。多くの人は、先ほどの例のように、頭ごなしにモチベーションを上げようとするか、今回の例のように2人でどんどん落ち込んでいくかの、どちらかをやりがちです。2人で落ち込むと、「じゃあ、今日、飲もう!」で終わってしまう(笑)。マッチングした後は、向かいたい方向へリーディングしていかないといけません。

 リーディングには比較的高度なスキルが必要ですが、機会を見つけて、少しずつチャレンジしてみましょう

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ピークパフォーマンス 代表取締役

平本相武(ひらもと あきお)

 1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。


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