「回収されない古紙」で「くし」作り――環境ベンチャーの挑戦

紙のうち7割は回収されて再生紙になるが、残り3割は燃えるゴミとして処分される。この古紙回収ルートから外れていた紙を回収し、生活用品としてリサイクルするのが環境経営総合研究所だ。

» 2007年02月07日 18時45分 公開
[吉田有子,ITmedia]

 家庭で古新聞や古雑誌を束ねてちり紙交換業者に渡し、引き換えに再生紙のトイレットペーパーを受け取る――こんな経験は誰もが持っているだろう。回収した古紙の多くは再生紙になるが、このように紙から紙を作ることは江戸時代に始まった。古紙回収の専門業者も江戸時代から存在し、当時は「紙屑買い」と呼ばれた。

 経済産業省と古紙再生促進センターによると、2004年に生産された約3089万トンの紙のうち、約6割にあたる1870トンは古紙から生産された再生紙。また、同じ年に古紙として回収されたのは約2167万トン。1年に生産された紙の約7割は回収されるという計算になる。

 それでは、残りの約3割はどう処分されているのだろうか。回収ルートから外れた紙には、家庭からのものもあるが、封筒などの紙製品を製造するメーカーや印刷会社からの裁断屑や、シュレッダーの切り屑など、企業からのものも多い。これらのゴミを企業が捨てる場合は、産業廃棄物という扱いになり、燃えるゴミとして処分されているのだ。

「古紙として把握されていない古紙」を買い取る

 このような「古紙として把握されていない古紙」に目をつけたのが環境経営総合研究所だ。同社では、このような企業からの古紙を「産業廃棄古紙」と呼び、1年で約543万トン発生するとみている。これは、2004年に回収されなかった紙のおよそ半分だ。

 松下敬通社長は「企業はこれらの古紙を産業廃棄物として、お金を払って処分しているわけです。これらを買い取ることで、既存の古紙回収業者との競争を避けることもできました」とその利点を語る。

 環境経営総合研究所では、このように回収した古紙を独自の技術で粉末化し、リサイクルしている。作っているのは再生紙ではなく、緩衝材や断熱材、発泡トレー、くしやクリップ、スプーンやフォークなどの生活用品。変わったものでは、椅子や組み立て式の棚のような大型のものもある。

環境経営総合研究所が生産する「くし」(左)とその一部。「紙」マークが付いているのがわかる
くしを使ってみた

プラスチック製品と同等の強度を確保

 古紙からくしやトレーを作る──。従来プラスチックを使って作られていたようなものを、紙を原料にして作るところに、同社が開発した技術の特徴がある。

 回収した紙は、まず直径5ミリ程度に粉砕したあと、すりつぶして50マイクロメートル程度の粉にする。「紙の再利用は、紙の繊維を生かした形で行うのが今までの常識でしたが、繊維に関わらず非常に細かい粉にします」(松下社長)。この粉をデンプンと混ぜ、水蒸気によってデンプンを発泡させたのち、固める。ここに空気の層が入り、断熱などに役立つ仕組みだ。

 しかし、紙の粉を固めて作ったくしの強度は大丈夫なのだろうか。使っているうちに折れてしまっては「やっぱり紙だから」などと評価されかねない。「紙製品に対するJIS規格はありません。そこで、プラスチック製品に対するJIS規格の試験を行い、パスしたものを製品化しています」(松下社長)。プラスチック製品のJIS規格をパスした、いわばプラスチックと同等の強度を確保しているというわけだ。

 再生品は、いずれも不要になったら可燃物として処分できることが特徴。製造の過程で化学薬品を使っていないので、焼いても有毒ガスは出ない。燃焼の際に必要な熱量も、プラスチックの場合は1キログラム当たり約1万キロカロリーかかるが、その半分から3分の1程度で済むのもメリットだ。

今後は環境ベンチャーへの経営コンサルティングも

環境経営総合研究所の松下敬通社長。Japan Venture Awards 2007にて

 松下社長は「Japan Venture Awards 2007」の経済産業大臣表彰を受けた。これは、経産省の委託を受けたベンチャー支援団体「創業・ベンチャー国民フォーラム」が優秀な起業家やその支援者を表彰するものだ。

 成功への道は平たんではなかったという。松下社長は1998年に19年間在籍した損害保険会社を退職し、環境ベンチャー企業に対するコンサルティングを行う企業として環境経営総合研究所を立ち上げた。「しかし、最初のクライアントになるはずだった企業がインチキだったため、周りに迷惑をかけ、お金も失ってしまいました」。それがきっかけで、自らリサイクル製品を製造する事業に転換したという。

 今後、再びコンサルティングも行いたいと松下社長は言う。「現在ある環境ベンチャー企業の9割は社長が技術者です。自分の技術には自信を持っている一方、資金繰りやビジネスプランについては弱い人が少なくありません。今後はこういった企業の支援もしていきたい」と意欲を語った。

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