「Second Life」でゲーム内通貨を米ドルに換金――出資法に抵触する?ビジネスシーンで気になる法律問題(2/2 ページ)

» 2007年02月16日 19時00分 公開
[情報ネットワーク法学会, 中崎尚,ITmedia]
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オンラインでの電子マネーのやり取りは銀行業なのか

 銀行法4条1項は、無免許での銀行業を禁止している。この「銀行業」のうちの1つとして、銀行法2条2項2号は「為替取引を行うこと」を掲げている。「為替取引を行うこと」とは、銀行など金融機関の仕組みを使って、離れた者同士で直接現金ではなく「資金」を移動する内容の依頼を引き受ける、またはそれを遂行することだとされている(最高裁判所平成13年3月12日判決)。

 バーチャルワールド内の経済取引では、離れた利用者同士で経済的な価値を移動する場面もあるだろうから、この経済的価値が「資金」に該当するのか、また、資金を移動することを内容とする依頼を「引き受け」たといえるかを検討する必要があるわけだ。

 議論を難しくしている原因の1つは、「資金」に該当するための要件が明確でない点にある。1)「何にでも」「どこでも」「誰でも」使用できるか、2)一般的に元本の返還が約束されているか――などが考慮すべき要素として挙げられてはいる。とはいえ、そうした要素の全部が必須なのか一部だけで足りるのか、要素を満たしていると判断するための具体的な条件などについては、いまだ議論している段階なのだ。

将来の規制はどうあるべき?

 バーチャルワールド内の経済取引を行う事業者は、リアルワールドの金融機関や事業者のように記録保存義務や届出義務を課されていないため、当局の監視が難しい。そのため、マネーロンダリングを目論む者には絶好の舞台といえる。実際、国際的な電子マネーとして知られる「E-Gold」の運営会社にFBIが査察に入ったとBusiness Week オンライン版が2006年1月に報じた。

 将来、バーチャルワールド内の通貨ポイントが社会的な信用を獲得し、あるいは、非常に多くの事業者と決済サービスの面で提携するなどして、バーチャルワールド外の経済取引にも利用されるようになった場合、消費者は多額の資産をこの通貨ポイントで保有するような日が来るかもしれない。この段階まで来ると、冒頭に挙げた1〜5の観点からの規制のみならず、米国で話題になったようなバーチャルワールド内の経済取引を課税対象とする方向での議論も本格化していることだろう。

 最近になって、政府内でもプリペイドサービスに焦点を絞った規制の検討が始まった。ただ、既存の金融機関が課されている厳格な規制を、小規模なサービス事業者にまで一律に適用することが本当に必要なのかは慎重に検討するべきだろう。

もう1つの「通貨」――ポイントサービス

 ここまでバーチャルワールド内の経済取引を想定して述べてきたが、すでに現実の流通で大きな存在となっているポイントサービスについても少し補足しておこう。

 他店でも利用可能な共通ポイントは決済サービス的な意味合いが強くなって来るにもかかわらず、現在は「景品」として、「不当景品類及び不当表示防止法(景表法)」の規制を受ける場合もある――という程度に止まっている。この規制は、発行可能なポイントの上限を取引額(1000円以上)の10%とする規制(総付け景品制限告示)というもので、決済サービスという性格に着目した法規制は整備されていないのだ。

 法律上は「景品」――。とはいえ、消費者はポイントの還元分も織り込んで購買行動を起こすことが現実的だ。したがって、ポイントについても消費者保護を考慮するべきだろう。

政府の対応

 2006年4月、金融庁の金融審議会金融分科会「情報技術革新と金融制度に関するワーキンググループ」の座長メモを読んでみても、現時点では、プリカ法など既存の規制を拡張するのか、全く新規の規制を導入するのか、おおよその方向性も示されていない。バーチャルワールド内の経済取引について、どこまで踏み込んだ議論がなされるかも判然としていないのが現状だ。

 ポイントサービスについても2007年6月を目途に、経済産業省が消費者保護や個人情報保護に着目したルール作成に着手したばかりである。しかし、広くインターネット上の経済取引や決済サービス事業にたずさわるビジネスパーソンであれば、こうした議論の動向に目を光らせておくことが重要だろう。

情報ネットワーク法学会とは

情報ネットワーク法学会では、情報ネットワークをめぐる法的問題の調査・研究を通じ、情報ネットワークの法的な問題に関する提言や研究者の育成・支援などを行っている。

筆者プロフィール 中崎尚(なかざき・たかし アンダーソン・毛利・友常法律事務所所属)

サイバー・ロー、知的財産法や不動産や証券などのアセット・ファイナンスなどを担当する。なかでもコンピュータ・通信を中心に技術分野の事件やインターネット特有の問題に注力している。


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