日本版SOX法の“神話”とは?ビジネスシーンで気になる法律問題(2/3 ページ)

» 2007年03月23日 19時52分 公開
[情報ネットワーク法学会, 高橋郁夫,ITmedia]

日本版SOX法――影響力の神話

高橋 「神話」というのは元々、世界の創造など概念的なものの起源を伝えるもので、しかも、それが事実だろうがなかろうが、社会の構成員が信じることによって、あたかも事実として存在したものと同様の効果を持つものだろう。

 内部統制についても実際はそのようなものではないのに、日本版SOX法によって「新たに」内部統制を整備する必要が生じて、しかも、その法律は、なにか「根本的な」影響を与えるべきものとして定められたという認識が一般化しているように思えるんだ。

内田 それを高橋弁護士は「神話」と呼んでいるんですね。そもそも、この前、話にでましたけど、従来からの判決例などや旧会社法の定めでも内部統制についての定めがあるので、まったく新しい概念ではありませんね。

 東京証券取引所でも、会社代表者による有価証券報告書の記載内容に関する確認書という制度をすでに導入していますしね。その上、米国のSOX法では、いわゆる「ダイレクトレポーティング方式」が採用されているのに対して、わが国は、その方式を採用しないとしているので、厳密には“輸入”ではないし、米国で企業の負担が大きすぎていると批判されているのを踏まえたものとされていますよね。

こはと ダイレクトレポーティング?

藤丸 ダイレクトレポーティングというのは、監査人が、経営者における内部統制の評価とは別個にみずから、内部統制のプロセスの有効性を評価する制度。少なくとも日本では、ダイレクトレポーティング方式を採用していないと明言しているんだ。米国で、その制度が企業の多大な負担を引き起こしたという批判を十分に意識していたことにはなる。これに対して、日本では、経営者の宣言をもとに監査することが強調されているんだ。

 そもそも米国の制裁が極めて重いのに対して、日本では、その内部統制報告書の虚偽記載に対する刑事罰が必ずしも、重いものとは言えない。

 SOX法の実務について会計士も研修があるんだ。米国では「人を自動車でひき殺してしまいましたという場合の刑事責任と、内部統制について、有効ではないかもしれないと思っていたが、それでもかまわないと思って、有効だと宣誓したという場合の刑事責任とでは、どちらの刑事罰が重いでしょうか」という例示から研修がスタートする。それくらい米国では、内部統制の宣誓が誤りだったということは、重い刑事罰になってくるんだ。

米国版SOX法と日本版SOX法の違い――刑事罰について

 米国版では、906条(a)で、SOX法の定める要件に適合しないのにもかかわらず、添付陳述書を認識して認証した場合は、100万ドル以下の罰金または10年以下の禁固刑とされている。さらに、それらの要件を満たすかどうかについて、一顧だにせずに(「willfully」)意図的に認証した場合は、500万ドル以下の罰金または20年以下の禁固刑(同条のうち、合衆国法典1350条(c)(2)項相当条文)と定められている。

 日本版では、金融商品取引法197条の2の2で、虚偽の報告について「五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と定めている。


高橋 米国では、注意義務を果たしていたとしても、認識を誤っていたとして犯罪が成立しそうだね。それに対して、わが国では、故意犯ということで、認識を誤っていた場合には、犯罪が成立しない。同じSOX法でも米国版と日本版では、刑罰の重さや犯罪の主観的な成立要件について、かなり大きな相違があるのではないだろうか。

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