会計──というと、複式簿記とか減価償却とかそういったイメージを持つ人も多いだろう。しかし企業の経営に役立つ会計は、またちょっと違う。
「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」(山田真哉)をきっかけに、「なぜ、社長のベンツは4ドアなのか?」(小堺桂悦郎)「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」(林總)など、ビジネスパーソン向け会計読み物が人気だ。
会社のお金に関する仕組み=会計 を知っておかなくては──とビジネスパーソンなら向上心を抱くものだが、ちょっと待ってほしい。そもそも会計って、何のためにあって、何に使うものなのか。
「会社のお金の計算というと普通、会計という言葉が出てきて、では会計ソフトです──というのが当たり前になっている。ところが会計ソフトは、過去に起きたことを見ていく。つまり目的に向かってバックで走るようなものだ。去年の業績は分かっても、来月の口座残高がどれくらいあるのかは分からない。だから経営には役立たない」
そう話すのは、ビズソフトの中尾安芸雄経営企画室長だ。同社は、大手会計ソフト会社の元社員が設立し、中小企業向け会計ソフトの開発を行っている。
中尾氏が、「会計ソフトは経営には役立たない」と言うのは、会計ソフトの目的が納税のための書類作りだから。会計には経営から出資者への“説明”という役割もあるが、日本の中小企業はほとんどは同族会社なので、出資者と経営者が一致している。納税のための会計が行われているのが実態だ。
その一方で別の会計もある。中小企業であっても、請求書発行、売掛金管理、給与明細書作成、支払管理、現預金出納管理などの業務は必須だ。会計上の損益とは別に、現金の出入りを管理することで資金のショートを防ぐ──つまり資金繰りという“会計”をやっていかなくてはならないからだ。
納税と資金繰り──目的は違っても、処理の内容は似ている。会社に出入りする現金について、計算に入れるタイミングが違ったり、減価償却として支払いを先延ばしにすることなどが大きな違いだからだ。ところが、「資金繰りのために付けたこうした記録は、『こんなものは帳簿じゃない』と税理士に言われ、別途会計用の帳簿ソフトを使わなくてはならない」(安陪隆幸税理士)のが、中小企業の課題だった。
ビズソフトの「社長の経理ナビ」は、こうした中小企業の課題を克服するために作られた。中小企業の多くでは、資金繰りに関する請求書発行、売掛金管理、給与明細書作成、支払管理、現預金出納管理などをExcelや紙の書類で行っている。これらの機能を統合してパッケージソフト化することで、日々の管理業務を行えば自動的に未来の資金状況が分かるよう、予測の機能などを盛り込んだ。
資金繰り管理ソフトは各種あるが、請求書発行などの一般企業で必要となる日々の業務向けの機能を統合しているのが特徴だという。
さらに「資金繰りの各作業をやっていくと、納税のために必要な会計データを自動的に作成してくれる」(中尾氏)ことで、2度手間だった作業を簡略化している。
ただし現時点の課題は、1台のPCにインストールするパッケージ型ソフトであるため、請求書発行や支払管理などの業務もそのPCで行わなくてはならないことだ。各営業担当が個別に請求書発行を行って、それらのデータをまとめて管理することはできず、1台のPCに入力を集約しなくてはならない。
今後は、ネットワーク機能の拡充していく予定だ。既にWeb上からオプション機能をダウンロードできるようになっており、さらに会計データをインターネットを介して利用する機能の搭載も予定している。
「会計データから必要な数字をフォームに取り出して、必要なところに送ることができるようにしたい。例えば金融機関の借り入れであったり、生命保険の審査だったり、データを必要な企業に送ることが可能になる。また会計事務所から財務データを見られるようにすれば、先生と相談するベースにもなる」(ビズソフトの大島敦社長)
会計──というと、複式簿記や税務などを思い浮かべる人も多いかもしれないが、中小企業の現場を見ると、経営に役立つ会計はまた別のもの。企業の運営に直結する“会計”も理解しておきたいものだ。
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