社内で“劇団”を立ち上げろ――新人研修に演劇のススメ樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

筆者が営業部長をしていた時、人事部から新人研修の一環として、営業部の説明をしてほしいと要請が来た。持ち時間は1時間。悩んだあげく筆者は部内で“劇団”を結成したのだった。

» 2008年03月06日 18時00分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 毎年、この時期になると、来年度の新人たちを迎え入れる準備が始まる。新人には、全社の説明に加えて、各部門あるいは営業担当者個人が,、どのような仕事を、どのようにやっているのかを教える必要がある。

 筆者が営業部長をしていた時、人事部から新人研修の一環として、営業部の説明をしてほしいと要請が来た。持ち時間は1時間だ。

シナリオはシンプルでいい

 通常、新人たちの前に筆者や次長が立って仕事の内容を説明するのだが、こうした型にハマった研修は受講する新人たちが眠くなってしまうことが多い。そんな研修は絶対にやりたくなかった。「我が営業部の仕事を理解してもらうためにどうすればいいか」。悩んだあげく筆者は部内で“劇団”を結成したのだった。

 まず大事なのはキャスティングである。筆者は、去年の新人である1年目の2人と、かなり熟練の営業課長を選んだ。演劇は素人だが仕事はプロである。ベテランの営業課長はもとより、新人の2人も入社以来、筆者が腕によりをかけて育ててきた。

 一方、シナリオはシンプルにし、練習も1回だけ。普段の担当業務を考えると、劇団にそうそう力は入れられない。仕事の内容と劇の筋書きを筆者が簡単に説明しただけである。主眼はあくまで営業の典型的なパターンを見せること。まず、1年目の1人が扮した顧客のところに、筆者の扮した担当が売り込みに出かけるシーンである。

あんまり仕事熱心な人物を選ぶと……

 挨拶から始まって営業のセールストークを見せ、ごく簡単にお客がにこにこ笑って了解をする。「いいですね。じゃあ注文を出しますよ」。そこで筆者が一言。「というのが営業であれば何の苦労も要らないのですが、こんな風に簡単に注文してくれるお客はどこにもいません」。続いて、“本当”の営業をお見せするわけだ。

 出てきたのは熟練の営業課長。客先の購買担当者に扮している。この購買担当者に、もう1人の1年目が売り込みをかけるシーンだ。この営業課長が、まさに適役の厳しい購買担当者を演じたからたまらない。よくぞこんなに憎たらしく、劇ができるなと思うほど意地悪な質問ばかり並べ立てる。1年目新人が、懸命に説明しているのをいじめるのである。

 最初の指示では、営業がある程度進んだところで購買担当者が折れてハッピーエンドにするようにと言っておいたのに、全く無視。課長が1年目の売り込みを拒み続けるので、筆者自身も見ているうちに腹が立ってきたほど。もしかしたらこの課長は、客先でこれくらい厳しい質問を受けてきたせいかもしれないとも思った。

 50分ほどたっても終わらないので、たまりかねて「OK、そのあたりでいいだろう。おしまい」と助け船を出して終了した。

新人たちのコメントでスカウティング

 最後の10分は、新人たちに“演劇”に対するコメントを書いてもらった。「入社して沢山研修を受けましたが、初めて眠くない研修を受けることができました」「営業の苦労がよく分かりました」「営業を支援できる技術を早く習得したい」といったコメントの中で、「たった1年であんなに営業ができるようになるんだ。すごい」と出演した1年目の2人に驚く声もあった。1年目の彼らは劇に出演することで、1枚皮が脱げたのかもしれない。

 こうした新人たちのコメントは実は重要で、筆者の隠れた狙いはコメントを読んで、優秀でやる気のある新人を探すことでもあった。


 社内に役者はたくさんいる。それを活用して、技術部の劇団、開発部の劇団、人事部の劇団を作るのもよいだろう。なお、ほかの部署でも新人研修に演劇を取り入れた場合を考えて、毎年新しい要素を加えるようにしたい。そうでないと、二番煎じのように思われてしまい、悔しい思いをすることになるからだ。

 ちなみに、出演した課長のイメージはその後、あの意地悪役になってしまった。彼とまじめな打合せをしている時にも思い出してしまって困ったものだ。あのキャスティングが果たして良かったのか、悪かったのか、今でもよく分からない。

今回の教訓

ボードメンバーが演劇します――決算説明会。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

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 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら


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