人工の“お天道様”は見ている――死角のない超小型監視カメラSECURITY SHOW 2008

ダミーでも効果があるほど、監視カメラはその存在で人を威圧する。だが夏に登場するのは、逆に空気のように存在感を消し、360度のパノラマで監視する超小型カメラ。カメラが本当に映し出すのは、映像の奥にある“見えないけれど大事なもの”だ。

» 2008年03月10日 15時41分 公開
[豊島美幸,ITmedia]

 ボックス型にドーム型。SECURITY SHOW 2008のそこかしこのブースでは、さまざまな形をした監視カメラが、「監視してますよ」と、自らの姿カタチで威嚇する。そんな中、逆に存在感を消すことを特徴とする監視カメラを見つけた。

360度グルッと映し出す、直径わずか3センチのドームレンズ

 それがこの8月、立山システム研究所が世に送り出す予定の「PALNONカメラ」の最新作だ。予定販売価格は20〜25万円。Pはパノラマを、Aはドーナツ型を、Lはレンズを指し、NONは光学系を意味する。名が示すとおり、最大の特徴は全方位で映像をとらえる点。

PCに映っているのが、パノラマレンズがとらえたさまざまな画像。好きな個所を選んで平面画像にできる
直径約30ミリの試作品レンズ。天井から突起するのは右紙から上の約10ミリ

レンズの大きさは、指と比べるとこんな感じ。発売までにまだ小さくなる予定

 出品していたのは、「なんとか間に合わせた」という試作品。カメラ本体を天井などに埋め込み、ちょうどモグラ叩きの頭のように半円レンズをちょこんと出して、真上から映像をとらえて使う。試作品の現段階で飛び出す頭の高さが約10ミリ、レンズ部が直径約30ミリだが、設置場所から10〜15メートルまでの像をとらえることができる。

 360度の全方位を映し出すこのレンズに死角はない。通常の監視カメラはせいぜい160度までしかとらえることができないからというから、通常の2台分以上“仕事”をする。レンズ部が目立たないうえ2台必要なところでも1台で済むので、カメラの存在を意識させることがない点も大きな強みだ。それでも夏の発売までに、さらにサイズダウンを図ると説明員は息巻く。

 パノラマレンズで多いのが、ミラーユニットを取り付ける方法だ。これはレンズに半円形の反射鏡を付けてパノラマ画像を映し出す。ミラーユニットはレンズ本体よりも大きいので、まず見た目で目立ってしまう。そのうえレンズに鏡を正確に合わせ込むのが難しく、少しでもずれると像が不均一になってしまうのがデメリット。

 ところが同社のパノラマレンズは、レンズの表面一部に360度の像を映し出す加工を施しているのだ。すでに特許を取得しているこの方法なら、レンズだけ露出すればいいため目立たない。おまけに合わせ込む必要性もないため、像を均一に映し出すことができる。さらに現在販売中の「PALNONカメラ」は画素数が200万画素だが、500万画素まで伸びる予定だ。

PCに取り込んだブース内の元画像
元画像の右側を平面画像にして映し出したもの

 小型化と高画像化予定の「PALNONカメラ」。ネットワークで使う場合の使い勝手はどうか。カメラの中にデジタル画像処理機能が組み込まれているため、PC操作で画像処理をする必要がない。PCで操作するのは、見たい部分を選び出す作業だけ。選び出した個所は、平面画像となりモニターに映る。

 選び出した平面画像は、現段階ではサーバ上で1度に20カ所まで見ることができる。この範囲以内であれば、パノラマカメラの特性を生かし、複数の人間が同時に、遠隔操作でそれぞれが見たい個所を指定できるのもメリット。パノラマでない監視カメラの場合、見たい個所へカメラの向きを変えなければならないため、遠隔操作ができる人間は1人に限られてしまうからだ。

人工の“お天道様”がオフィスを照らす

 さて、冒頭にあるように監視カメラというのは、「見張ってますよ!」とカメラ自体の存在で“敵”の士気をそぐもの。なぜこのカメラは存在感を消し去る方へと向かっているのか――。そんな疑問を説明員にぶつけてみると、意外な答えが返ってきた。

 商品パンフレットには、主な納品先として電鉄会社や物流センターなどが記載されている。ところが実は、「おカネを取り扱う場所のニーズのほうが多い」のだそう。あくまでオフィスや店舗で働く内部者を、人知れず監視するニーズが生み出したカメラ。それがこのカメラが存在感を消さなければならない最大の理由だった。

 『星の王子さま』の中でキツネが王子さまに言った、「本当に大事なものは、目に見えない」という言葉をご存知だろうか。良心も大事なものの1つ。存在を意識させない監視カメラは、ワーカーの良心を見つめる機械じかけの“お天道様”なのだ。「誰も見えないからいいや」「誰も見ていなくても、お天道様が見ている」――果たしてあなたはどちらを選んでいるだろうか。

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