「言葉を介さず、直接心の窓を開くのに大変有効だ」(柴崎さん)というアートセラピーは、「ここ1〜2年で企業に導入されはじめている」。導入目的はさまざまだ。
例えばグループでセラピーを受けたある企業では、人間関係がギクシャクしていたグループの全員で、1点の絵を描いてもらった。すると仕事に対する価値観やビジョンがバラバラな上、このことに誰も気づいていなかったことが判明。
「そんなこと考えてたの?」と互いに驚き合ったという。さらに柴崎さんは、仕上げた絵をグループ全員の視界に入るところに飾るよう指示。「絵を見るたび、描いたとき一体になった感覚をよみがえらせる」のが目的だ。
このセラピーに要した時間は2時間。だがグループ内のコミュニケーション活性化と個々人のビジョンの擦り合わせには十分効果があったという。
企業セラピーの目的はこれだけではない。「今、ビジネスパーソンの4人に1人は、隠れうつだと言われていて、うつ予備軍が企業内にはたくさんいる」。クエスト総合研究所は今後、こうした隠れうつをアートセラピーで早期発見し、ストレスケアに役立てていく予定だという。また企業からのニーズを受け、同研究所では5月から企業へのセラピスト派遣サービスを開始したばかりだ。
同研究所をはじめ、現在はさまざまなアートセラピー団体がワークショップを開催している。ただ受講者が男性の場合は、最初は抵抗感を示す場合が多いという。というのも「女性に比べ男性は、理論で納得したものしか受け入れない思考型の傾向が強い」からだ。このため「最初は非言語のアートセラピーを懐疑的な目で見る人も少なくない」。さらに他人に弱みを見せたくない傾向が重なるので「初めから積極的に足を運ぶ男性がいない」のだという。
男性はパートナーの女性や企業に促されて、最初はいやいや受講するケースが多い。「もっと男性にも気軽に受講してほしい」と、柴崎氏。そのための配慮や対策を練っていく予定だ。
もしあなたの勤めている企業や、企業と提携している産業医や医療団体がアートセラピーを取り入れている場合は利用してみるのも手。ただ会社を通じて受けるのは抵抗感がある、または心療内科やクリニックに行くまでの一歩がどうしても踏み出せない――そんな人は、アートセラピーのワークショップに気軽に行ってみては?
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