ナンバー2だっていいじゃないか――三三・角川素久さんが考える起業とは達人の仕事術(2/3 ページ)

» 2008年05月27日 20時00分 公開
[鷹木創,ITmedia]

管理と現場のオペレーション、相反する役割をどうこなす?

 2007年、何とか合格して中小企業診断士を取得。退職した角川さんに、大学時代の仲間から起業の声がかかったのはそれからまもなくのことだった。

 仲間とともに立ち上げた会社の名前は「三三」(さんさん)という。名刺情報にビジネスチャンスが存在すると考え、名刺のデータベースサービス「Link Knowledge」を提供することにした。主に法人顧客がターゲットで、「社内に散らばる客先の名刺を1つのデータベースで管理すること」が狙いだ。

 名刺のデータベース化はそれほど目新しい話ではない。ドキュメントスキャナで読み込んで、OCRソフトなどでデータベース化した経験のある人もいるのではないだろうか。三三のLink Knowledgeはこのデータベース化の手順に人手を介したのが特徴だ。三三の中に登録センターを持ち、そこのスタッフが名刺情報を確認しながら入力するのである。

 すべてを機械任せにしないところに登録の精度を上げる秘密があるのだが、一方で、機械任せにしないことで、アルバイトの人件費や教育研修費などのコストも上がってしまう可能性がある。

Link Knowledge。読み込んだデータをデータベースに登録する際、三三のスタッフが確認して入力する

 角川さんの担当は、この現場スタッフのオペレーションと経営の管理。まだまだ成長途中のサービスということもあり、登録件数量は日によってまちまち。常時数人のスタッフを確保しているが、入力しきれない日がある一方、あっという間に入力しきってしまいヒマな時間を過ごしてしまうこともある。現場担当としては短時間で効果的に処理するために人数が多い方がいいが、総務をはじめとする経営全般の管理担当者としてコストを考えると最少人数で乗り切りたい。

 こうした相反する要望には地道な努力で対応するしかない。シフトを細かに変更したり、営業が仕事を取ってくる時間を見計らって人員を増やす――などだ。空いている時間を研修に当てたり、キャパシティを超えた時には自ら登録作業を行うこともある。営業、経営企画、経理と渡り歩いたため、会社組織の仕組みは理解できたつもり。あっちの立場やこっちの立場と、柔軟に見方を変えられるようにもなったという。

性格や個性を変えようと無理しない

 中小企業診断士の看板を掲げ、自営業として自ら切り盛りする選択肢もあったが、現実は仲間とともに歩む道を選んだ。

 「自分は社長タイプではないかもしれない、という迷いもあります」。角川さんの自己イメージは、「ビジネス上の判断を仰げる上司がいると、最終的にはどこかで頼ってしまうタイプです。精神的な意味で、ちょっと楽したいのかもしれません」と、どこか頼りなげ。リスクを取ってまで最終的な決断をしなければいけない執念や情熱を持つような社長像と、角川さん自身の未来像とは、ちょっと違うのかもしれない。実は、若くして起業した角川さんのお父さんも退職までの25年間、長くナンバー2の地位にあった。実父の経歴とも、微妙にシンクロするのである。

 だからといって仕事に手を抜いているわけではない。「社長が365日24時間仕事のことを考えているとすれば、私も300日20時間ぐらいは考えています」。現在の役割は「何でも屋」だという。「組織の穴を埋めるのが役目。社内で誰もやっていない、やらないようなニッチなことをやるのが好きなんですね。ほめられないとやらない性質なんですが、きっとそういう穴を埋めてあげるとほめられるのではないでしょうか」。

 これまでの経験を生かしてジェネラリストとして活躍する角川さんだが、不安もある。「長く続けることで、その道の専門家になれるはず。そういう意味で自分自身の専門はこれです、と言えないことが気になっています」。プロに憧れる。スペシャリストになりたい――。

 ただ、これまでの経験に後悔はない。「その時を楽しめるのが(自分の)いいところ。常に今が1番です。過去の自分に対して恥ずかしいと思いたくありませんし」と明るい。「(受験などの)知識は簡単に身に付きますが、性格や個性はそうそう変えられないものです」。そういうところでは無理しないのが角川流なのだ。

コストを気にする総務担当を兼務しているだからだろうか、こまごまとしたメモは裏紙に取ることも多い

角川さんの7つ道具。左から、ThinkPad Z60t、名刺入れ、裏紙パッド、ウィルコムの9、コクヨのA5ノート。下にはリングファイル。右奥はデルのDimension C521

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