第11回 仮説は当たっていなくてもかまわない実践! 専門知識を教えてみよう(5/5 ページ)

» 2008年05月29日 19時10分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]
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「検証読み」を行う姿勢をどのように育成するか?

 ところで、この「仮説に対する検証読みが大事」というのは、「教える技術」というよりは「学ぶ側が持っておくべき学習姿勢」であると冒頭に書きました。実際、「検証読み」というのは、自分自身で遂行して自分で「これで間違いない」と確信できるところまで行かなければ意味はありません。「正しい知識を先生に教えてもらおう」という姿勢ではダメなのです。

 ですから、基本的には「学習者」側の問題であって、教える側でその姿勢を育てるところからするのは難しいのではないか、と思います。私の場合は主な業務が「企業研修の講師」ですから、いろいろな会社さんに1日や2日だけ呼ばれていって講師をするというスタイルが多い関係で、特にそう思います。「正しい知識を教えてもらおう」という姿勢から「自分で試して自己決定する」という姿勢への切り替えは、短時間では難しいわけです。

 とはいえ、「そんなの無理だよ」とあきらめていいことでもありません。時間はかかるとしても、「教える」側がこのことを意識して適切な接し方をすれば、かなりのレベルまでできるはずだ、とは思っているし、実際にそんな差が出た実例も知っています。ここでは長くなりますので省略しますが、メルマガに書いたことがありますので「読み書き図解力を鍛え直すマガジン」2008年4月26日号をご覧ください。バックナンバーの「横浜高校 対 明徳義塾」の話などがそれです。

 おそらくそのために必要なのが「コーチング」なのでしょう。実は私はビジネススキルとしての「コーチング」の流行についてはかなり批判的に見ていますが、「コーチング」が本質的に役に立たないと考えているわけではありません。今回の記事に書いたような学習姿勢を育てる上で、「コーチング」は間違いなく重要です。ただし、それを行う「コーチ」は、ティーチング能力を持った上でコーチングをする人物であってほしいと思っています。「仮説は当たっていなくてもかまわない」とはいえ、経験値の浅い者では自分の間違いにもなかなかすぐには気がつきません。にもかかわらず、「自ら気づくに任せる」のでは、現実問題として学習スピードが遅すぎます。

 ですから、「ティーチング」能力を持った上で「コーチング」をする教育者が求められているのです。「今時の学生は自分では考えないよ」という問題をあちらこちらで聞きますが、そんな状況のもとでは、なおさら「仮説を立て、検証する」ことが重要なのではないでしょうか。

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筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)

 IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『図解 大人の「説明力!」』


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