「ツレうつ」的闘病のコツ――ムカつくけどしょうがない【最終回・社会復帰編】もう大丈夫、あなたを救う「うつ対策119番」(3/3 ページ)

» 2008年05月30日 11時00分 公開
[豊島美幸,ITmedia]
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「僕にとって今は余生。生きてるだけでもうけもん」

 取材中のツレさんはよく話す。笑顔も多い。筆者の目からはすっかり元気に見える。そんなツレさんが最初に体調不良を感じたのは2003年の秋。2004年1月、意を決して受診するとうつ病と診断され、辞職して療養生活に突入。2年たった2006年12月、主治医から寛解(かんかい)を告げられ、ツレさんは2年にわたる闘病生活に終止符を打った。

 寛解とは「見かけ上の症状が出なくなったこと」をいう。うつ病の場合は、病気が治っても完治という言葉は使わないのだ。主治医が寛解宣言をして1年半がたったツレさんに、今の心の状態を聞くと、「発症前のようには治らないです。一生このままですね」。言葉と一緒に穏やかな笑顔が返ってきた。

 発病し、何もかもが変わったという。一番変わったことは欲がなくなったことだ。「しょうがないや、となんでも思えるようになりました。治りたいというのも欲の1つなんで、この欲だけは捨てるのが難しかったんです。でも捨てました」

 うつを発症したことで1度死んだと思っているツレさんは、今を余生と捉えている。「だからどんなこともいいやって思えるんです。できなくたってどうってことないんだって。発病前は部屋もキッチリ片付けるのが好きだったんですけど、今は汚くてもいいんだってなってきて、最近は片付いていると居心地が悪くなってしまうほど……それはマズイですね」

 常に向上あるのみと、仕事に生きる「スーパーサラリーマン」だったツレさんは、今や「スーパー主夫」。うつになって生き方をガラッと変えた。

 「もし仕事だけが生きがいの人がいたら、その人が持っているほかの可能性を知らずに狭めているかもしれないですね。もったいないと思います」。視野をもっと広げてもいいのでは、とツレさんは考えている。「たとえそれが同好の人たちと一緒に女装することでもいいんです」。「僕の場合は育児を通して、自分が女性っぽいを発見した」という。「スーパーサラリーマン」のままでは発見できなかったかもしれない。

同じ轍を踏まないために――心のクセを変える

「赤ちゃんって全身で泣くよね」「うん。若いよ、若すぎるにもほどがあるっ!」。息子さんの話で盛り上がる2人

 人生を変えたうつ。発病後に気をつけていることは、心のクセを変えることだ。「以前と同じだと同じ経路をたどって、また発病しますから」と、細川さんは言う。ツレさんはもともと凝り性。なんでも気が済むまでやってしまう。文字通り寝食を忘れるという。ツレさんが今、最もハマっているのは育児だ。

 夫婦には今、生後3カ月の長男がいる。イグアナのイグが長男だから次男――というべきか。とにかく初めての「人間の子ども」である。育児に夢中のツレさんが、「息子のゲップがなかなか出なかったから、ゲップをカンペキに出す方法を研究しまくった」と言うと、「寝ないで一晩中(息子の)背中をたたいてたりするから……またうつがぶり返すんじゃないかって心配でした」と、細川さんはため息をもらす。細川さんは「気が済むまでやらしてくれ!」とツレさんが頼んでも、「ダメって言ったでしょ」としかるようにしている。

 夫婦はうつに深く関わった者として、今後もブログや本などでうつに悩む人たちを応援したいという。今回、小誌のインタビュー取材を快諾したのもその気持ちからだった。取材日は数日続いた台風の去った日。いつにも増してうつの方からのメールが細川さんや『ツレうつ』の出版元である幻冬舎に殺到した。

 「低気圧になると、人ってどうもうつになるみたいなんです」と、細川さん。そのほか桜の時期、ゴールデンウイーク明け、年末など世の中が浮かれる時期にも増えるそうだ。原因は分からないが、「取り残された気持ちになってしまうのかもしれませんね」と推察する。

 「台風の時には、『台風が来るとうつになる人は多いですから、あなただけじゃないんで大丈夫ですよ』ってブログで呼びかけていこうと思っています。そうすると『私だけじゃないんですね。安心しました』ってメールが来るんですよ。これからもできる範囲で声掛けはしていきたいですね」

 そんな2人は今後、どう生きていこうとしているのだろう。

 「まさか病気になるとは思わなかったし、病気が治るとは思わなかったし、本が売れるとは思わなかったし……子どもができるとも思わなかった」というツレさんは、「うつになってから今まで、常に1年後に自分が何をやっているかは分からない状態です。それもいいやって楽しんでますね。夢は息子が小学校に上がったら、PTAの会長になることくらい」と、実に大らか。「ママさんベストセラーを目指す」という細川さんも、「穏やかに生きていければ、私はそれでいいです」。夫婦そろってあくまで無欲である。

 集中連載計4回。うつの人もその回りの人も、うつを知らなかった人も――少しでも役立てていただけたら幸いだ。

細川貂々(ほそかわ・てんてん)

 マンガ家・イラストレーター。1969年生まれ。セツ・モードセミナー在学中に将来の伴侶(ツレ)と出会い、卒業後に結婚。夫と息子(0歳)、ペットのイグアナたちと暮らす。

 2006年3月、うつになったツレの闘病を描いた『ツレがうつになりまして。』(通称『ツレうつ』)を幻冬舎より発刊。大反響を呼び、マンガ家としてブレイク。その後、2006年12月に『イグアナの嫁』(幻冬舎刊)、2007年11月に『その後のツレがうつになりまして。』(幻冬舎刊)などを発刊。

写真左から『ツレがうつになりまして。』『イグアナの嫁』『その後のツレがうつになりまして。』

 そのほか『かわいいダンナとほっこり生活』(ゴマブックス刊)、『いろはにいぐあな』(集英社刊)、『きょとんチャン。』(メディアファクトリー刊)、『きょとんチャン。一歩前へ』(メディアファクトリー刊)、『どーすんの? 私』(小学館刊)などマンガ著書多数。


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