「今までにないアイデアを出さなきゃ」をかなえる「エクストリーム・ゴール」アイデア創発の素振り(3/3 ページ)

» 2008年06月24日 11時27分 公開
[石井力重,ITmedia]
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人の創造性は、危機に直面した時に強く刺激を受ける

 あなたが記事を読む時間があと5分あるならば、以下の記事を読むよりも、その5分で、手法を実践してみてほしい。「しっかり知る」より「手っ取り早くやってみる」ことをお勧めしたい。以下の記事は、それでもなお時間があり、興味のある方が読んでもらえたら幸いだ。

 この手法は(エクスカーションに似て)不思議である。SCAMPERTRIZのような発想のトリガーになるツールとも言うべきリストが要らない。未来年表のようなインプットのための情報データベースも要らない。紙とペンだけあればいい。出てくるアイデアは本来、自分の中にあったアイデアだからだ。ならば、そのアイデアはエクストリーム・ゴールを使わなくてもただ考えているうちに出てきてもよさそうなものだが、そうはいかないのである。

 実は、創造性は危機に直面した時にも強く引き出される傾向がある。典型的な例として、「じり貧の組織が優れたイノベーションを起こす」ケースだ。そうしたケースでは「初め、われわれに有利な材料はほとんどなかった。ただ、我々には危機感があった」というコメントが得られることが多い。

 筆者は仕事柄いろいろな組織の中に入って創造支援の活動をするが、上記のコメントの本質に迫るために、組織内にいる人々を創造性の面から観察してきた。それをまとめると2つの特性が分かってきた。

特性1:人は安定している活動をしている時は、既存の延長線上で発想する

 組織は、慣性(変化を抑える性質)が大きい。それは、所属する個人の考え方にも影響する。すなわち変化の少ない状況では、人は過去の延長線上で同質な発想をしがちなのである。

特性2:危機感は、壁を越えさせる創造力を促す

 長期的に見れば、どんな成長曲線もいずれ、頭打ちになる。企業で言えば、収益性が悪化する。すると組織に危機感が醸成され、次の成長曲線を目指し、創造性が発揮され始める。

 多くのリーダーは「創造性と危機感の関係」を、感覚的に知っている。そして、できることならば、早い段階で活用したいと考えている。しかし、早めに危機感を持たせようとして、リーダーが「危機感を持って!」と檄(げき)を飛ばすだけでは、革新的なアイデアは出てこない。

 というのも、メンバーが実感として危機感を持っていない場合、号令だけで創造性のスイッチを入れるのは難しく、逆にむしろ会議にストレスフルなムードが生じてしまうからだ。そうしているうちに組織はゆっくりと「×」な状態(連続的な成長曲線の頭打ち状態)に近づいていく。

 今回紹介した手法は、「大きな制限」「極端に高い目標」というテーマを設定することで、危機と同じ状況(つまり、既存の延長線の発想では解決できない状況)を仮想的に作り、力を引き出すわけだ。こうした「危機感の良い面を活用する」という考え方は、発想法以外にも多く見られる。

 次回、次々回と引き続き、アイデア出しのテーマを修正することで閉塞感あるアイデア会議に風穴をあける「テーマ・メソッド」を紹介する。

著者紹介 石井力重(いしい・りきえ)

著者近影

 事業のアイデア創造支援や技術開発をサポートする事業化コーディネーター。仙台のベンチャー企業デュナミスが事務局を務める創造性育成ツール開発プロジェクトでは、プロジェクトリーダーを務めた。このプロジェクトで誕生した新商品が「ブレスター」である。みやぎものづくり大賞(2007)で優秀賞を受賞。社会人院生として、東北大の博士課程にも在籍、新事業創造マネジメントや創造工学を研究。Webサイトは「石井力重の活動報告」


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