第17回 サル仕事には意味がある――「習っていないからできない」問題を解くヒント実践! 専門知識を教えてみよう(3/4 ページ)

» 2008年09月03日 13時00分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]

「やり方を習って覚えればそれで済む」症候群

 ちなみに「習っていないことはできない」のが当たり前と思っている学生達の「習う」対象は、何か特定の仕事をこなす「やり方、手順」であって、その手順が成り立つ前提として存在する動作原理ではありません。この件について私が驚いた体験を1つ紹介しましょう。

 10年ほど前、私がある仕事で理系の学生アルバイトA君を使っていたときのことです。私がA君に作業を指示したとき、こんなやりとりがありました。

開米 A君、テストマシンのApache(※)の設定変更しておいて。

A君 どうやるんですか?

開米 「httpd.conf」を編集してから、「kill -HUP `cat /var/run/httpd.pid`」で再起動

A君 はい、分かりました。……終わりました。

開米 ……何か質問ないかい?

A君 次は何をしましょうか。

開米 次じゃなくて、今の例えば「kill -HUP」って何か分かってる?

A君 Apacheを再起動するものじゃないんですか?

開米 ……じゃ、なぜそれに「kill」(※)って名前がついてると思う?

A君 え……と、どうしてですか?

開米 分からないならどうして質問しないんだ? たとえバイトだろうとエンジニアの仕事するんなら、そんなんじゃやってけないぞ!

※筆者注:「Apache」はWebサーバ用ソフトウェア。「kill」はUNIX系OSのコマンドの1つ

 英語の「kill」には当然ながら「殺す」という意味があります。この「殺す」という意味と、このとき求められていた「Apacheを再起動する」という作業とは、直接結びつかないはずです。技術的な説明は省略しますが、彼はこの時「kill」コマンドの本当の意味をまったく知りませんでした。もし知っていたら、「kill -HUP って何か分かってる?」という問いに対して「Apacheを再起動するもの」という答えが出てくるはずはありませんでした。

 この件でのA君の最初の発言「どうやるんですか?」はある意味象徴的です。彼が知ろうとしたのはApacheを再起動する「やり方」だけで、なぜそれでできるのかという「仕組み」、動作原理についてはまったく興味を示さなかったのです。

 およそ理系の学生らしくないその姿勢に私は愕然(がくぜん)としたものでした。これでは、1から10まで細かく手順を指示してやらないと危なくて使えません。いえ、それをしてさえなお見張っていないと不安なほどです。

 このように「動作原理から理解する」という姿勢を持っていない学生(や新入社員)に対して、動作原理を教えようとするのはなかなか骨が折れます。というのは、彼らは「動作原理を知ることの意義」をそもそも理解しないので、たいていの場合学ぼうとしないのです。

 A君の事件で言えば、killコマンドの意味をきちんと勉強すればUNIX系OSに関する重要な知識を得ることができたはずなのに、実際にそのチャンスがあったときに彼がとった行動は、「次は何をしましょうか」と「次の指示」を欲しがっただけでした。

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