【番外編】「PhotoShare」で世界を変える――中島聡さんひとりで作るネットサービス(2/2 ページ)

» 2008年10月09日 08時30分 公開
[田口元,ITmedia]
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やっていることは「ペンションのおやじさん」

 PhotoShareを開発するにあたっては、中島さんがユーザー側のインタフェースを、増井さんがサーバ側の作り込みを行った。今回一番苦労したのは「とにかく時間がなかった」こと。開発を始めたのは2008年4月だが、AppleのAppStoreがオープンする7月にどうしてもリリースしたかったためだ。「3カ月間、本当に寝ずの開発が続きました」

 ほかにも開発で苦労したのがエラー処理だ。「どんな環境においても、ユーザーが思ったような動作をしなくてはいけない」ので、細かいシナリオを考え抜き、1つずつ丁寧にエラー処理を作り込んでいった。通信障害が起きたときはどうするか、WiFiから3Gに接続が変わった時はどうするか――。

 「ホットスポットでの動作を確認するためのテスト環境がうまく作れなくて、何度も車を飛ばしてスターバックスに行きましたよ」。中島さんは苦労した思い出をそう話す。

 また、iPhoneはクライアントソフトウェアとサーバに分かれているので、サービスをバージョンアップする時は特に気をつけなくてはいけない、とも教えてくれた。「新しいバージョンをリリースしても、すぐに全員がバージョンアップしてくれるとは限りません。古いバージョンでも新しいバージョンでも動くようにサーバ側の処理を調整する必要があります」

 しかし、こうした苦労も、サービスを開発し、運営する楽しみにはかなわない、と中島さんは言う。「今まではWindowsのようなソフトウェアを作っていたので、ユーザーの声を直接聞くことができなかったのです。PhotoShareではユーザーがどう使っているかを直接知ることができます。それがとてつもなく楽しいですね」

 中島さんはPhotoShareを運営する自身を「ペンションのおやじさん」に例える。「こうしたコミュニティの運営は、実に泥臭い作業です。ユーザーがさみしい思いをしていないか、常に目を配らせていないといけません。投稿した写真にコメントが付いていないユーザーを見つけてはコメントを付ける、といったこともしています」

 ユーザーが実際にサービスをどう使っているか、それを知ることでいろいろなことを学んだという。「やっぱり日本人はモバイル端末での写真の撮り方をよく分かっています。米国人はずいぶん長い間こうした習慣がありませんでした。だからどうしていいか分からなくて自分撮りに終始してしまう人も多いですね。面白い看板だとか、ほかの人が見ておもしろいものをいかに撮るか、そうしたことを日本人のユーザーから世界中の人が学んでほしいと思っています」

 また、PhotoShareでは、ユーザーが不適切だと思う写真を通報することもできる。不適切な写真を投稿しつづけるユーザーは自動的にブロックされ、ほかの人と写真が共有できなくなるようになっている。「不適切な投稿の処理をどうしようかと思っていたのですが、こうした集合知によるフィルタリングはやっぱりうまくいくな、ということも学ぶことができました」と、中島さんは話す。

PhotoShareに有料の手書きツールも

 今後PhotoShareは、どう進化していくのだろうか。「新しい機能としてはRSSフィードの出力を現在テスト中です。スケーラビリティの問題を解決したり、フィルタリングの調整などを現在行っているところです」。投稿された写真がRSSでも配信されるようになれば、RSSリーダーでも見ることができるし、ほかのサービスに組み込むことも容易になるだろう。

 ビジネスとしての展望はどうだろうか。「PhotoShareは基本的に無料で配布し続けます。ここでユーザーを獲得し、彼らが何をしているかを観察しながら新しいサービスを作っていきたいと思っています。現在開発しているのはお絵かきツールです。PhotoShareを見ていると投稿された写真の10%ぐらい、特に女性がアップする写真には手書きで何かが描かれていたりしますから。こうしたツールは有料で販売しようと思っています」

 さらに中島さんは、ビジネスプラットフォームとしてのAppStoreが実に優れているとも教えてくれた。その理由はこうだ。「前に携帯電話を使ったビジネスをしていたから分かりますが、AppStoreにはキャリアと交渉しなくていい、という利点があります。特に全世界で展開しようとするとAT&T、ボーダフォン、NTTドコモと交渉するコストが馬鹿になりません。そのコストだけで利益が出ないことも多々あります。売り上げの30%はAppleに行きますが、交渉のコストがないことを考えると妥当な金額だと思います」

 AppStoreというプラットフォームを活用し、たった2人で全世界に向けてサービスを展開している中島さんと増井さん。「もっと多くの人が創作活動をできるように」と願う彼らのサービスが実現する、新しい世界に期待したい。

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