「もう1度、夢を持たないか?」――最後に未来への提案を簡単に信頼関係を築く方法

落ち込む相手には、イライラしてつい「だめだよそんなんじゃ」と言ってしまいそうになりますが、これはNGです。前回までのように段階を踏んで信頼関係を築けたら、最終ステップに移りましょう。

» 2008年10月22日 14時02分 公開
[平本あきお(構成:房野麻子),ITmedia]

 人間は必ず4つの意識レベルのどれかに当てはまります。相手と信頼関係を築くポイントは、まず相手の意識レベルに合わせて徹底的に共感することです。

 前回まで、落ち込んでいる相手に共感していく過程で、本人が過去の自分の成果や、現在の努力やプロセスにもOKが出せたところまで見てきました。さらに「そうですね」という表現が本人の口から出てくるようになったら、ようやく「ちょっと未来の可能性も見てみない?」と、「(4)ノッてるレベル」に移行できるのです。


「売り上げ目標は?」――切り出すタイミングは慎重に

 ノッてるレベルまで来たら、「本当によかった時の自分を思い出しながら、もう1回、自分の夢を持ってみないか? もう1回、自分の情熱を思い出してみないか? ひょっとして入社した当初の気持ちがよみがえって、できるかもしれないね」というように、初めて未来の希望へと本人の目を向けさせます。

 この時重要なのが、具体的な目標設定をさせないことです。本人が「そうですね。ちょっとやってみます」と口にした途端に、「じゃあ、来月の売り上げ目標はどうする?」とすると、またハマッたレベルに戻ってしまいます

 ハマッたレベルからノッてるレベルまでの4ステップを踏んで、本人から進んで「こういうことをやりたいです。本当にやります」と、具体的な発言を口にしたら、初めて第4ステップが完了したことになります。そこでやっと、「そうか、そういう君だったら。じゃあ、来期どうする?」と、初めて具体的なビジネス上の目標設定に進めるようにしてください。

 うまくいけば20〜30分の会話で、ハマッたレベルからノッてるレベルまで一気に持っていくことができますが、基本的には、1回の面談で1ステップが完結するくらいがいいでしょう。

 今日は相手をそのまま受け入れよう、今日は抜け出したい気持ちだけに火をつけよう、今日は可能性の話をしよう、というくらいに、焦らず進めてください。場合によっては、1ステップで数回の面談が必要な場合もあります。

「だめだよ、そんなんじゃ」より「君のおかげで助かってるよ」

 今回紹介したスキルは、ヒューマンスキルです。ビジネススキルではありません。

 そして、マネージャーは人間が相手なのですから、ヒューマンスキルが不可欠です。パソコンや機械が相手だったら、その人はマネージャーではありません。ほかの人がパフォーマンスを上げるように、管理するのがマネージャーであり、そうなるためにこのヒューマンスキルが必要なのです。そのヒューマンスキルとは、4つの意識状態のレベルに合わせて対応でき、ハマッたレベルからスタートして、ノッてるレベルまで引き上げられること。これができるようになって、初めてビジネススキルに導くことができます。

 上司は往々にして、部下の4つの意識状態にしっかり対応していないのです。部下が落ち込んでいると能率は落ちるし、見ている方もイライラするので、部下を認めたいという気持ちにならないんですね。「チッ、もっと元気だせよ!」「だめだよ、そんなんじゃ」と言いたくなるんですが、しかし、そういう時だからこそ、「本当によくやってきたね」「君のおかげで助かっているよ」という姿勢で見てあげてほしいですね。

 大抵の人が、マネージャーという立場に関しては初心者です。高校や大学で部活動をやって、人の扱いに慣れているならともかく、マネージャーになって、急に今までとは別の能力を要求されます。実際、マネージャーには、仕事の中身に関する能力以上に、ヒューマンスキルが要求されます。というのも、今は自分よりも部下の方が、仕事内容についてよく知っている可能性が高いからです。ですから今のマネージャーは、ヒューマンスキルの方をもう少し鍛える必要があるのです。

書き出して、想像する――自分自身を引き上げることも

 ハマッたレベルのところでも紹介したように、セルフカウンセリングでノッてるレベルまで自分自身で自分を引き上げていくこともできます。次のようにしていきます。

ステップ1 自分がどれだけハマッているかを書き出します。

ステップ2 ハマッているとはいえ、できているところ、がんばっているところを認めて、「ここはよくやっているじゃん」というものを書き出します。

ステップ3 なぜこの状態から抜けたいのか、その理由を書き出します。「今の状況だとほかのスタッフに迷惑をかける」「家族も心配している」「子供にとってカッコいい父親でいたいから」など、思いつく限り書き出します。

ステップ4 いろいろな物事がうまくいきだしたとしたら、どんなふうになっているか、こうなればいいということを想像します。


 この4つのステップを踏むことで、セルフカウンセリングができます。話を聞かなくてはいけない立場である自分のテンションがあまり高くない時は、自分でまずセルフカウンセリングをして、相手を見極められるくらいの状態にしておくといいかもしれませんね。

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ピークパフォーマンス 代表取締役

平本あきお(ひらもと あきお)

 1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は、『すぐやる! すぐやめる!技術 ― 「先延ばし」と「プチ挫折」を100%撃退するメンタルトレーニング』。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。


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