アスリートの場合を見てみましょう。
大きく分けると練習期間中、試合直前期、試合期間中、シーズンオフの時の4つの時期があります。練習期間中はクタクタなるまで練習しますので、練習後は放っておいてもテンションがオフになります。
ところが、試合直前期は練習量を減らします。そうすると、体をマックスに使わないのでクタクタにはなりません。肉体的には余裕があるから、テンションもオフにならない場合があり、この有り余ったテンションが緊張やあがりに繋がるのです。
この時に、メンタルコーチングが効果的なことがあります。試合期間中は、試合とその合間で、体と心のオン/オフを切り替えることが非常に大事です。自分でいかに心と体のオン/オフができるかどうかが試合を決めます。そして試合後は少し練習から離れて心も体もオフにして、旅行に行ったり家族と過ごしたりする時期になります。このように、アスリートの場合はオン/オフの切り替えが明確にあります。
でも、ビジネスパーソンの場合はそこまではっきりしていないので、自分で意識して作っていかなくてはなりません。どういうパターンにすべきかは、残念ながら人によって違うし、仕事のサイクルによっても違います。
いずれにしても、繰り返しになりますが、スケジュールを組む時に、オフの予定を先に入れることです。心(頭)と体がオフになる予定を先に入れてしまうのです。
しっかりオフにしないと、ちゃんとオンにはならないと思ってください。オンにオンの上積みをしても、パフォーマンスは上がりません。しっかりオフを取った方が、オンの効果も高いのです。ちょうど、適度にしゃがみ込む方が高くジャンプできるのと同じように。皆さんはしゃがみ込むことなく、もっともっと上に飛ぼうとしています。まず、しゃがみ込んでください。
テンションは緩みすぎても緊張しすぎてもダメです。これは、アスリートでもビジネスパーソンでも同じです。
神経がどのくらい活発に働いているか、その状態の度合いを覚醒水準といいますが、覚醒水準が上がりすぎると、緊張したり、あがったり、焦ったりします。こうなると、アスリートもビジネスパーソンもよいパフォーマンスを見せることができません。
プレゼンの前に「どうしよう、どうしよう」と焦るほどパフォーマンスは落ちます。逆に、覚醒水準が低くて、緩みすぎ、気が抜けすぎ、ほぐれすぎでもパフォーマンスは上がりません。
スポーツでは、柔道やレスリングなどの格闘系種目は、覚醒水準が比較的高めの方がパフォーマンスが上がります。反対に、ゴルフや射撃などは、覚醒水準が比較的低めの方がいい傾向があります。
同じ種目でもポジションによって違うことがありますし、もちろん、個人差もあります。また、プロは比較的緩み傾向が強いです。毎日、それを仕事にしてやっていますからダレてくるんですね。アマチュアや新人は緊張度が高めです。プロはやや緊張感を高めるように、アマチュアはリラックスさせるように心がけます。
ビジネスパーソンも職種によって違いがあり、営業はテンションをやや上げた方がいい。あまりまったりとしているとダメです。ただ、あまりに高すぎると引かれますから注意が必要です。プログラマーなどは低めがいいですね。
スポーツの専門用語で、心のウォーミングアップを意味する「サイキングアップ」という言葉があります。緊張しすぎている時はリラクゼーションを、緩みすぎの場合はサイキングアップをして調整します。
ビジネスパーソンの場合、長年同じ仕事を同じペースで続けている人は、比較的緩みすぎの傾向があるので、サイキングアップする方がいいかもしれません。サイキングアップの方法は、書籍の『心のスイッチ』などを参考にしてみてください。
反対に、新しい部署に異動したとか、急にポジションが上がったとか、業種業態が変わったとか、出張で慣れない国に行った、というような時は緊張しますので、リラクゼーションが必要です。リラクゼーションについては過去にお話しした「リラクゼーションの7種の技法」も参照してください。
次回は、あがらないための6つの方法を見ていきます。
ピークパフォーマンス 代表取締役
平本あきお(ひらもと あきお)
1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は、『すぐやる! すぐやめる!技術 ― 「先延ばし」と「プチ挫折」を100%撃退するメンタルトレーニング』。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。
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