さて、その「ワークライフ・バランス支援」の内容は、前ページの表のように、制度の概略はあるものの、細かいくくりは設けていない。従業員が、それぞれ必要な時に必要なだけ休業できるようになっている柔軟さを感じさせる。
中でも驚くのは、最長6年という休業期間。「当社では、従業員が安心して子育てができるように、生まれた子が小学校に就学するまで休業できるシステムを作りました。そこで、同じく家族内の大きな問題である介護にも、育児と同じ期間の休業を設けて、支援をしたいと考えました」と村松さん。
しかし6年も休んだら、職場に復帰するのは難しいのではないだろうか。特にサイボウズのような日進月歩のIT業界では、仕事から離れている時間が長いほど、実務に支障を来すはずだ。
「確かに後れを取るでしょう。しかしそれは、半年でも1年でも6年でも同じこと。それなら必要なだけ、しっかり休業を取る方が従業員のメリットになるはず。当社は従業員に長く働いてもらいたいので、定年制度を廃止しています。やる気があれば、生涯現役で活躍していただきます。新卒で入社した場合、就労期間は40年以上になるでしょうね。その長い一生を考えたら、6年間なんてほんの一部。大切な家族のため有意義に使ってほしいと考えています」
2008年に入り、サイボウズはさらにユニークなワークライフ・バランス支援制度を導入した。仕事の業績で従業員を評価する「成果重視型制度」と、勤務年数や勤務態度を評価対象にする「年功重視制度」を同時に運用するものだ。
成果重視型
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年功重視型 家庭やプライベートに時間を費やしたい社員用
成果重視型 個人や会社の成長のために仕事に熱中したい社員用
この人事制度は、年に1度、従業員自身がどちらかを選択し、決定する。昇給や賞与の金額に差が生じるものの、従業員は仕事をメインにすることも、就労時間を制限してプライベートに時間を費やすこともできる。
この制度を利用すれば、将来介護が必要になった時も、職場の人に気兼ねすることなく、仕事と介護とを両立させることが可能だろう。サイボウズはこのように従業員が自分の生活スタイルを大切にできるよう、さまざまな角度から方法を検討し、導入している。
また、特別な制度を設定するだけでなく、日頃からコミュニケーションを円滑にするための努力にも余念がない。社内の風通しを良くすれば、従業員の声が聞きやすくなり、ニーズや制度の改良点などが見えやすくなる。また困ったことを相談しやすい雰囲気を高めることもできるからだ。特に介護はデリケートな問題。日頃から付き合いがないと、言い出しにくいという声も多い。
具体的な方法としては、参加者たちがお互いの顔を見ながら話し合うミーティングなどの機会を増やしている。また2007年に設けた社内クラブ制度も、従業員同士が年代や部署、役職の枠を超えて親睦を深めるきっかけになっている。こうした積み重ねも、支援制度を実用的な存在にする有効な下地だろう。
従業員の将来を考え、早くから準備を整えているサイボウズ。今後、どのような支援策を打ち出し、実施していくか興味は尽きない。