どう埋める? 企画と社員の「温度差」――ソフトバンク「働きやすい」を形に イマドキの福利厚生(1/2 ページ)

従業員の定着率の強化を図り、子育て支援策を次々と打ち出すソフトバンクグループ。2007年の「第5子の出産祝い500万円」に続き、2008年も支援策を打ち出したが、従業員との間には温度差があるようだ。埋めることはできるのか――。

» 2008年11月28日 19時25分 公開
[豊島美幸,ITmedia]

 イマドキの福利厚生を紹介する今特集。「長く働いてほしい」と、従業員の子育て支援策が有名なソフトバンクグループの福利厚生にスポットを当てる。すでに何人かが支援を受けている子育て支援策がある一方、ほかの福利厚生企画は、従業員との間に「温度差」があった――。

100万円以上の祝い金をもらった人は32人

 ソフトバンクグループは2007年3月、「第5子が生まれたら500万円」など、正社員を対象に高額の出産祝い金制度を開始すると発表。破格の金額が当時話題となった。

 旧制度では3000円〜1万5000円だった祝い金が、第1子は5万円、第2子は10万円、第3子は100万円、第4子は300万円、第5子は500万円に跳ね上がった。制度の対象は、ソフトバンク、ソフトバンクモバイル、ソフトバンクBB、ソフトバンクテレコムのソフトバンク系列4社の正社員だ。運用開始から1年半。第3子で30人、第4子と第5子で各1人、祝い金を受け取っているという。

 そんなソフトバンクグループでは2008年11月、「CSR(企業の社会的責任)の一環」と称し「家族のきずな応援キャンペーン」を企画。グループ社員に向けて、子育て支援セミナーやイベントを1カ月間、開催した。11月を選んだのは11月16日の「家族の日」にちなんでだ。ソフトバンクグループでは今後も、毎年11月を子育て支援強化月間にし、キャンペーンを展開するという。

泣き声もれる「里親制度」のセミナーも、参加者は少なく

「子供がいるだけで我が家は命に満ちている。子供は大きな喜び。だから里親はやめられません」と話す坂本さん。里親制度とは、さまざまな事情で実親と暮らせない18歳未満の子供を、乳児院や養護施設などから一般家庭に迎え入れて育てる制度だ

 キャンペーン中、11月17日10時30分、東京・汐留にあるソフトバンク本社でキャンペーンの一環として講演「家族のきずな〜あなたに会えてよかった〜」が始まった。里親制度のもと、約20年間で10人以上の里子を育てた里親の坂本洋子(さかもと・ようこ)さんが登壇。悲喜こもどもの実体験を話した。

 里子になる子供たちは、実親の育児放棄や虐待などで心に深い傷を負っている。日常生活の中で、坂本さん夫婦が「信用してもいい大人」であることを子供に肌で感じてもらい、時間をかけて“親子”のきずなを深めていくという。

 子供には、温かな親のいる“当たり前”の家庭が必要だと訴えたこの講演。講演半ばからすすり泣く声が会場の方々で聞こえ、講演の最後まで泣き声が止まないほどだった。「初めて里親制度を知り、考え方が変わった」と声を挙げる参加者や、「帰宅してから、里親制度について家族と話し合った」参加者もいた。

 こうしたことからも企画した総務部の意図と、それをダイレクトに受け止めた参加者の意識に温度差はない。だがその参加人数は30人程度に過ぎなかった。社内のイントラネット内の事前告知によると、想定参加人数は100人。なぜ70人も少なかったのだろう。

セミナー不参加は忙しさから? 開催を知らなかったから?

 セミナー内容に里親制度を選んだ総務部では、「家族のきずなにふさわしい内容と考え」選んだという。だが参加者以外の人たちにはピンと来なかった。企画者と従業員とのそんな意識のズレが原因かもしれない。「もしかしたらテーマが身近で個人的なものでなく、社会的すぎたかもしれない」と、担当者は原因を探る。

 また、この日の講演時間は月曜朝の10時30分から1時間30分にわたった。週末にたまった事務仕事の処理や朝礼、定例ミーティングなどで時間の都合がつかなかったことも原因の1つだろう。

 11月27日の18時45分から行われた講演「夫婦でともに働きともに子どもを育てるヒント」でも同じことが言えるようだ。この時は想定参加人数50人に対し、約30人が集まった。参加者の多くは男性で、育児に取り組みたい気持ちがうかがえた。一方、女性の参加は少なかった。「参加したかったママさん層は、子供のお迎えがあるため参加できなかったのでは」と、担当者は推測する。

 テーマの選定も去ることながら、せっかく開催するのだから、参加しやすい日時に開催する配慮も必要なのかもしれない。だがそもそも、講演があること自体を知らなかった――という人もいるのではないだろうか。

 というのは、筆者が記者として働くアイティメディアは、ソフトバンクグループの一社である。だがアイティメディア内で「家族のきずな応援キャンペーン」の開催を知っている社員は、知る限りいなかった。筆者もその1人。関係部署からたまたま連絡を直接もらってようやく知ったに過ぎない。

 ソフトバンク広報に告知方法を聞くと、社内のイントラネットで告知したり、告知ポスターを社内に張ったり、ポップを社員食堂に作ったりと、「かなり力を入れて」周知に努めたという。ソフトバンクモバイル、ソフトバンクBB、ソフトバンクテレコムには全社員にメールで告知までしている。ただし、これらの告知は、主にイベントのあった11月に入ってから。告知の出足がやや遅れたのも原因の1つと考えられる。

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