さて、次は先ほど例に挙げた、先生による「お手本教示」パターンをこの「問題・課題・特性・解決策」のフレームワークに当てはめてみましょう。
以上、これだけです。「問題点」も「特性」も出ていませんね。実は、人に何かを教えるときに、このように「こういうときはこうしろ」と、「解決策」だけを与えて「教えたつもり」になっているケースはよくあります。
とりあえず幼児に安全確保のための最低限の習慣を身につけさせるにはこれでいいのですが、大人の教育でこれをやってしまうと、とりあえずその場をしのぐことはできても、「自分で考える力」は身につきません。これは「安易に解決策を与えてしまう」失敗パターンです。
そこで、自分で考えるようにさせるために、ひとまず「解決策」を削ってみましょう。
おや、よく見ると【課題モドキ】と、「モドキ」がついているのはどういうわけでしょうか。実をいうと、この表現では「課題」になっていません。「課題」というのは、「実現すると良いこと、実現したいこと」です。
何を実現したいのかが入っていないと、「課題」にならないわけです。これは「不明確な課題設定」という失敗パターンです。そこで、先ほどの「問題解決ストーリー」に出ていたサンプルと比べてみます。
実はこの2つをまとめて1つにすると、一番スジのいい「課題」ができます。つまり
というわけです。こうすれば、「道路を横断するとき」という特定の状況下での「安全確保」という目的を設定したことになり、「課題」として役に立つようになります。「状況の特定」と「目的または目標の設定」が、「スジのいい課題」の条件なんですね。
さて、「課題」はこれでいいので「最終形」と付記しておきました。こうして良い課題を設定できたわけですから、あとは自分で考えてほしいところですが、世の中そんなに甘くありません。
例えば、3000年ぐらい前の縄文時代に竪穴式住居で暮らしていたような、そんな人間を現代に連れてきて「道路を横断するときに安全確保するにはどうしたらいい?」と問いかけたらどうなるでしょうか。「道路って何?」「横断って何?」「安全って何?」と、「?」のオンパレードになるはずです。これは「前提知識の不足」という失敗パターンです。考えるためにはその前提となる知識が必要であり、前提知識がない場合は先にそれを与えてやらないと「考える」ことはできません。
その前提知識に当たるのが、問題解決ストーリーでいうところの「特性A〜D」の部分の情報です。前提知識は必ずしもすべて与える必要はありませんが、かといって少なすぎては話にならないので、「課題の解決策を考えるために必要な前提知識」のうちのどれだけを「教わる人間の持っている前提知識」がカバーしているかを把握する必要があります。その上で、受講生が考える過程でどのようにその知識を使っているかを注意深くモニタリングし、コントロールしなければなりません。つまり、受講生が「思考を進めるプロセス」を想定できていなければならないわけです。それができていないと、「思考プロセスデザイン不在」という失敗パターンにあたります。
以上、ここまで、
という4つの失敗パターンを書いてきましたが、これらの失敗パターンにはまらないようにするために、私が世の中に広めたいと考えているのが「概念分析」というワークです。簡単に言ってしまうと
概念分析
人に何かを教えようとするときに、教えようとするテーマ自体に含まれる概念を整理分析して、適切に再構成する活動
ということで、これをきちんとやらないと、前提知識の不足に気づきませんし、思考プロセスをデザインすることもできません。もちろん明確な課題設定もできないので、結局、安易に解決策を与えてその場しのぎをすることになりがちです。
実は前述の「道路の渡り方を教える問題解決ストーリー」もある種の概念分析の産物です。ただし、今回掲載したのはまだ中途半端な状態なので、次回でもう少し改善を図ります。それを通じて「概念分析」の重要性と利用価値をより深くご理解いただきたいと考えています。
では、ここで1つある質問をして、次回の予告としておきましょう。
質問 「受講生が考える過程でどのようにその知識を使っているかを注意ぶかくモニタリングし、コントロールしなければならない」とはいっても、言うは易く行うは難しです。それを実現するために「先にやらなければならないこと」を次の2つから選ぶとしたら、どちらでしょうか?
――では、次回はこの質問への解答から始めます。
IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』、
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