身体の前にカベを作るな――動画で見るプロ講師のあいさつ術(後編)プロ講師に学ぶ、達人の技術を教えるためのトーク術(2/2 ページ)

» 2009年03月24日 11時15分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]
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 というわけで再チャレンジした庄司さんの「あいさつ」映像がこちらです。

開米 一発目の「こんにちは!」がイイですね〜!!

庄司 いやー、我ながらほんと全然印象変わりますね。

開米 「こんにちは!」の後で間を取ってから「ありがとうございます」を入れると、どうですか?

庄司 これだと会場ときちんと双方向のミュニケーション取れてる感じに見えます。

開米 そうなんですよ。やっぱり人間、自分の話を聞いてくれる、自分のことを見てくれている人に好感持ちますから、それは1対1でも1対多でも同じなんですよね。講師のほうが喋るだけじゃなくて、双方向でないといけないんです。

庄司 こんなちょっとした演出で、変わるもんですねえ!

開米 おもしろいでしょう?

庄司 いや、おもしろいです。

開米 じゃ、7項目確認してみますね。まず「おじぎをしない」。これはOKですね。

庄司 はい。

開米 2番目の「こんにちはの後で返事を待つ」。

庄司 やりました

開米 3の「両手を組まない」。

庄司 これ意識して、手を組む代わりに準備していた原稿を1枚持ってたんですけど、どうでしょう?

開米 手を組むよりもこのほうがいいです。手を組むとどうしても身体が硬くなってるように見えるし、守りに入った印象を与えます。ただ、両手にペーパーを持って身体の前に立てていると、それはそれでお客さんとの間に障害物を置くことになるので、心理的な距離感与えちゃうんですよ。

庄司 うーん、難しいもんですね。

開米 できるだけ、自分の身体とお客さんの間にカベを作らないようにしてください。片手で持つだけでも印象違ってきますよ。

庄司 身体の前にカベを作らないってことですね。

開米 はい、例えば下の図1のような会場もよくあるじゃないですか。客席があって、一方のカベにスクリーンやホワイトボードがあって、片隅に講師席があってここでパソコン操作しながらしゃべる――という環境のセミナー会場、ありますよね?

庄司 ええ、ありますね。一番普通の形式じゃないですか。

開米 こういう会場では、講師席でパソコンを操作することになるので、Aの位置で話すことが多いわけですが、最初のあいさつはBに出てきてする方がいいんです。

庄司 へえー!!

開米 これも要するに「カベ」なんですよ。普段は講師席でいいんですけど、最初と最後のあいさつは前に出てきてすると、それだけで印象がよくなります。

庄司 な、なるほど……いやこりゃおもしろい!

開米 かなり細かいノウハウですけどね。じゃ、次行きましょう。4番のアイコンタクト。これはできてる感じです。

庄司 そうですか、よかった!

開米 次、5番の「させていただく禁止」。

庄司 これ言っちゃいましたね……。

開米 ついつい言っちゃうもんですよ。ま、ときどきポロっと出るぐらいなら、あんまり気にしなくていいです。連発しなければ大丈夫。

庄司 大丈夫ですか、分かりました。

開米 で、次は6番の「名前をゆっくり」。これは最初からできてましたし、問題なし。問題は最後の「身体をゆらさない」ですけど……大して気になるほどじゃありませんが、ちょっとゆらいで来ましたね。

庄司 そうですねえ。

開米 ま、このぐらいなら心配しなくていいでしょう。

庄司 大丈夫ですか?

開米 大丈夫です。たぶんこれ、手を組まないようにしたことによる副作用だと思います。手を組まないことでプレッシャーの逃げ場がなくなるので、こういうところに出てくるんですよね。

 結局、大勢の人の前で話をするというのは誰にとっても非常に大きな心理的ストレスになるんです。これはあたりまえの話なんで、それが身体の動きのどこかに出るのも当然ですから、いざ本番に入ってしまったらもう気にしなくていいです。気にしすぎると、「失敗した!」という意識がさらにストレスを増やしてかえって悪化させちゃいます。

庄司 あー、なるほど……。

開米 ま、もっとも、身体の動きのほうを直すことで心理をコントロールすることも可能なんですけどね。

庄司 え、例えば……?

開米 一番効果的なのは、「声」を変えることです。人は緊張すると声のトーンが上がって早口になりますが、それを意図的に落として「ゆっくり、低い声で話す」ようにすると、気持ちのほうが落ち着いてくるんですよ。まあ、根本的には「呼吸」なんですけどね。大きくゆっくり腹から呼吸できると落ち着きます。でも、呼吸は自覚しにくいので、「声」に注意しておくといいでしょう。

庄司 おお! なるほど〜。

開米 ま、なんにしても、始まっちゃったらもうコンテンツに集中することですね。大丈夫です、それで。

庄司 練習の時は意識してもいいんですよね?

開米 そうですね、練習の時は意識して何度も直してみるといいです。

庄司 分かりました、それじゃ、気楽にいきますよ!(笑)

開米 それがいいですよ。そうすれば、コンテンツの良さが活きてきますから!


 ……と、ひと通り「あいさつ」についての検討が終わったところで、次の課題が出てきました。

庄司 で、今度はそのコンテンツなんですけど……

開米 はい、あいさつが終わったら次はコンテンツですね。

 「あいさつ」は結局、その後の本題、コンテンツそのものに入るための入り口です。あいさつだけうまくても、本題をうまく教えられないようではセミナーとしては失敗です。そこで、次回からはコンテンツ部分の改善事例をご紹介します。コンテンツ部分の改善に必要なのは、これまでも何度も書いてきました「概念分析」です。ご期待ください。

筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)

 IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』『図解 大人の「説明力!」』


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