このままだと来月の給料はねえぞ感動のイルカ(2/2 ページ)

» 2009年04月02日 18時30分 公開
[森川滋之,Business Media 誠]
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 夕方になっていた。150軒までは数えていたが、それがずいぶん昔のことに思えた。選んだ業種のナ行まで進んでいた。

 「お世話になっております。日本××株式会社です」という元気な声がした。「OA機器を扱っております○○商事と申します。ご担当の方はいらっしゃいますでしょうか?」

 「なんだ、営業かあ。お客さんかと思ったのに」。浩はまた電話を切られると思った。もう覚悟の段階は通り越して、断られることにマヒしていた。

 「申し訳ありません」

 「あ、いいんだよ。実はまだ開業したばかりなんで、いろいろ入用なんだ。安くなるの?」。はじめて質問された。

 「あ、はい。モノによっては」

 「モノって、具体的にはなに?」

 「えーっと、ちょっとお待ちください」。浩は、あわてて目玉商品のカタログを広げた。こんな展開は予想していなかった。まごまごしていたら切られるかもしれない。あわてると余計時間がかかった。幸い相手は待ってくれていた。

 「例えば、××と□□を組み合わせて買っていただきますと、通常の半額となります」「お。それ、どんぴしゃだよ。見積もりと契約書持ってきて。住所言うよ」

 30分後、浩はその住所のビルの4階にいた。確かに、必要最低限のものしかないオフィスだった。相手は契約してくれた上、ほかにも入用だからと、どんどん商品説明を求めてきた。浩のつたない説明にうなずきながら、一生懸命聞いてくれた。

 浩は、すっかりうれしくなり、相手のことが好きになった。好きになると、トークも弾んだ。自分がすごい営業マンじゃないかと勘違いするほどだった。社長も浩が気に入ったらしく、結構な買い物になった。

 浩は、営業の仕事が好きになるかもしれないと思った。

著者紹介 森川滋之(もりかわ・しげゆき)

 ITブレークスルー代表取締役。1987年から2004年まで、大手システムインテグレーターにてSE、SEマネージャーを経験。20以上のプロジェクトのプロジェクトリーダー、マネージャーを歴任。最後の1年半は営業企画部でマーケティングや社内SFAの導入を経験。2004年転職し、PMツールの専門会社で営業を経験。2005年独立し、複数のユーザー企業でのITコンサルタントを歴任する。

 奇跡の無名人シリーズ「震えるひざを押さえつけ」「大口兄弟の伝説」の主人公のモデルである吉見範一氏と知り合ってからは、「多くの会社に虐げられている営業マンを救いたい」という彼のミッションに共鳴し、彼のセミナーのプロデュースも手がけるようになる。

 現在は、セミナーと執筆を主な仕事とし、すべてのビジネスパーソンが肩肘張らずに生きていける精神的に幸福な世の中の実現に貢献することを目指している。


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