会社ごとを自分ごとにする方法――カヤックの創造的選択達人のクリエイティブ・チョイス(2/2 ページ)

» 2009年05月21日 23時59分 公開
[鷹木創,Business Media 誠]
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合理化はするな、合目的化しろ

細谷さん

 カヤックのこうしたやり方、細谷さん、吉川さん、堀内さんらはどう考えるのだろうか。「社長の意識で考えることはそれほど簡単なことではないはず」と心配するのは、『地頭力を鍛える』の細谷さん。

 柳澤さんは「普通の会社は過去に失敗したことを繰り返さない。僕らは過去に失敗したことをもう1回やるんです。新しく入ってきた人のために何度も繰り返すんです。失敗しない限り分からないから」と答える。

 例えば、遅刻を防ぐにはどうしたらいいかというような基本的なことを考えることが効果的だ。普通の会社だったタイムカードを導入して、遅刻したものをチェックするようなルールができるはずだが、「(カヤックでは)タイムカードを導入するような制度は導入しません。制度以外のやり方でどうやって遅刻を減らすかを考えさせ続けるんです」

 失敗が増えれば増えるほど、失敗しないために手順やルールができていく。これは合理的で効率的な考えだ。だが柳澤さんの考えは違う。「(そうしてできたルールは)人の作ったもの。そこに入るわけだからどうしたって自分ごとにはできない。管理職の考えで決めたらどうしても効率重視になってしまう。でもそれでは、いいアイデアは出ない。何度も何度も失敗していいんです」

 細谷さんも納得。「以前、ある本でこんな話を読みました。バナナを吊した部屋に4匹の猿を閉じ込めるんです。猿がバナナを取りに登ろうとすると、手が届く寸前に自動的に水がかかる仕組みになっています。そのうち猿たちはあきらめてバナナを取りに行かなくなる。その段階で1匹入れ替えます。新しい猿は何も知りませんから、バナナを取りに行こうとしますが、ほかの猿が止めるんですね。こうして1匹ずつ取り替えて行くと、終いにはバナナがあるのにどの猿も取りに行くなるんです。面白いのは、その頃になると実際には水をかけられた猿もいなくなることなんです」。「水が止まっているかもしれないのにね」(柳澤さん)

吉川さん

 「合理化をやってるんですか」と聞いたのは博報堂生活総研の吉川さん。「プロジェクトごとに合理化は取り組んでいますが、会社として効率化、合理化という言葉はほとんどでない」(柳澤さん)。

 「理が違う。合理という言葉は、理に合わせると書きます。カヤックの場合は、その理が違うように感じますね。実はすごく合理的なのでは」(吉川さん)

 柳澤さんも「面白さを求めるという目的には合理的」という。「合目的であるべき」と吉川さんが言う通り、合理的だと思っていたルールの目的を考え直し、再定義することが重要なのかもしれない。ただ、現場の仕事に没頭すると目的を見失いがちだ。堀内さんは「仕組みで思い出すようにする。毎朝ToDoリストを見るように、目的を思い出す仕組みがあるといい」という。

バランス――理念も変えなきゃいけない

堀内さん

 目的を考えるという意味では、経営理念のような企業の根幹に当たる部分も見直しが必要な場合がある。「リッツ・カールトンには、企業の信条や行動指針をしめした『クレド』(※筆者注:ラテン語で信条)があります。クレドを毎日、確認したり言い続けることで社員の意識を高めていくんだと思いますが、僕たちの業界は、とかく変化を求められる業界です。意識を高めながら変化しつづけるやり方を模索する必要があります。自由に発想するスピード止めないようにする。その辺はバランスですね」(柳澤さん)

 堀内さんも「経営理念の読み合わせ会をやっている企業もあるが、理念を絶対視しすぎると、ただの解釈論になってしまう。聖書のようなものではいけない」という。

 「あくまで生活者の発想です。パートナー主義。生活者で考えよう。広告主はつい企業の発想をしちゃいますよね。そこで我々が生活者の立場で考えるわけです」と吉川さん。「でも、メディア環境が変わっています。50年来の変化です」と苦笑する。

 一方、「創業してから、何十年もたっている企業の経営理念が創業当時のままというのは、違和感があります。企業も成長し続けるのだから、タイミング毎に経営理念を見直し、時代にあわせて表現を変えて、伝わりやすくするといいですね」(柳澤さん)。内容の変化に合わせて、新しいクレドを模索する――そんなこともクリエイティブ・チョイスと言えそうだ。

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