次の日は夕方まで仕事をして、夕方からは我が家族と一緒に、砂漠のピクニックに連れて行った。「空港、砂漠、自宅」というのが、砂漠の真ん中の首都リヤドで客を迎える時のセットだった。
四方八方見渡す限り誰もいない。遮へい物がない砂漠は、いかにしゃく熱の真夏でも午後3時を過ぎると、スーと涼しくなり始める。砂漠と言っても硬い土漠なので、カーペットを敷いてバーベキューが始まる。満天の星を見ながら話をする――昼間のしゃく熱地獄からうって変わって天国になるのだ。この状態では、誰もが心を開き話をしたくなる。
アラビア半島の旅行の話、砂漠の中の謎の大穴、砂漠のダイヤやサメの歯の化石のこと、サソリ狩りのことなどを話す。星空を横切る人工衛星が光って見えるほど空気が澄んでいる。天体望遠鏡を砂漠に持っていき、土星や木星などを見ていた。ここまでくると、相当うちとけてくる。「サウジの案件は、ぜひとも受注したいですな」と客が一言。こうしてビジネスがグッと強化されていくのだ。
砂漠でのリラックスした雰囲気の中で、貴重な体験を味わってもらう。その時に話すことは、人生に残る。
滞在も3日目くらいになると、仕事で客も疲れてくる。この辺りで、自宅に招待した。我が家で、(砂漠に一緒に行った)家族と一緒に食事をしながら、海外勤務のことや、旅行のこと、子供たちのこと、筆者の考え方などを話す。
サウジアラビアでは女性の素顔はまったく見ることができない。我が家ではヨメサンが、近所の奥さんたちと仲良くなって、どこの家にも自由に出入りしていたが、男性の筆者は一切入れなかった。
動物園も男性の日、女性の日、家族の日と別々に決まっていたり、女性だけしか入れない女性銀行があったりしたことも面白い話題だ。アルコールは厳禁で、アルコール入りのビールもなかった。食事が終わった後は、美味しいコーヒーを入れて話に興じるのだった。
筆者の場合は、サウジアラビアだけでも8年半も滞在したわけで、その間に何百人を「空港、砂漠、自宅」セットで話したか分からない。このように親密に話ができたことで、誰とも親しくなれた。
1つだけ問題があった。たとえ異なる出張者であっても、同じ話を何度もするのが筆者は自分の性格として嫌いだったことだ。毎回、できれば何か、どこか異なる話をすること、できることがビジネス・ストーリーテラーとしての筆者の誇りだった。
そのために、筆者はノートを活用したのだ。「何か面白い話はないか」と考えては、書き留め、書き足していた。手前味噌ながら、優秀なストーリーテラーたるべく積み重ねた努力が、その後の執筆につながった――というわけである。
自宅では筆者たちの人生観を語った。それで心からの親友になるのだ。
“テラワロス”なストーリーテラー――を目指せ。
1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら。アイデアマラソン研究所はこちら。
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