Googleが考えるクラウド――今できること、できないこと

固定のPCを使う必要のない「“インパーソナル”なコンピュータの時代がやってくる」。来日した米Googleのブラッドリー・ホロウィッツ副社長が、「Googleの考えるクラウドコンピューティングの今後」について語った。

» 2009年06月08日 20時30分 公開
[杉本吏,Business Media 誠]

 「過去に何度も耳にしたことはあるけれど、いまいちどんなものなのか分かっていない」――「クラウドコンピューティング」という言葉に、そんな印象を抱いている人も少なくないだろう。

 6月8日、米GoogleでGoogle AppsなどのWebアプリケーションの管理統括を担当しているブラッドリー・ホロウィッツ副社長が来日し、「Googleの考えるクラウドコンピューティングの今後」について説明した。

“インパーソナル”なコンピュータの時代へ

米Googleのブラッドリー・ホロウィッツ製品開発管理副社長

 そもそもクラウドコンピューティングとは、インターネット経由でサービスを提供する形態のことを指す。SaaSやASPとの違いも含め、実態がつかみにくい言葉だが、Googleの提供するサービスで言えば、GmailやGoogleカレンダー、Googleドキュメントといった「PCにインストールせずにブラウザから利用できるWebアプリケーション」のことと考えておけばいいだろう。

 クラウドコンピューティングとして提供するサービスは、インターネットを利用できる環境さえあればどこからでも使える。オフィスや自宅のPCはもちろん、インターネットカフェで初めて触れるようなPCでも同じサービスを利用できるし、データを保存するためのオンラインストレージも有料、無料合わせてさまざまなサービスが存在している。

 「たとえ自分のPCを紛失してしまったとしても、(Web上にデータを保存しておけば)それほど心配はないだろう。ただ新しいPCを買えばいいのだから」。ホロウィッツ氏は、「かつては、何か作業をする際に自分のコンピュータ、つまり文字通りの“パーソナルコンピュータ”が必要だった。しかし現在は、(クラウドコンピューティングによって)“インパーソナル”なコンピュータの時代にシフトしてきている」と指摘する。

 「(低スペックで安価な)Netbookなどが登場してきたという背景もあるが、クライアントはより小さく、より弱くなっている。パワーはますますクラウド側にシフトしている」

セキュリティ上のリスクやシステム障害に課題も

 インターネットを利用できる環境があればどこからでも利用でき、エンタープライズ導入の際のTCO(total cost of ownership:コンピュータ・システムの導入や維持・管理などに掛かる総経費を表す指標)を抑えられるといったメリットがある一方で、クラウドコンピューティングには課題も多い。

 中でもセキュリティに関する問題は、最も慎重に考える必要がある。従来であれば「重要なデータはローカルに保存し、人と共有したいデータはWebにアップロードする」といった考え方が一般的だったが、「パワーがますますクラウドにシフトする」ことになれば、プライベートなデータやビジネス上の機密データといったあらゆるデータがクラウドに置かれることになる。Googleマップの「マイマップ」機能で多発した個人情報の漏えいや、Googleドキュメントで文書が意図せず共有されてしまう不具合について記憶している人も多いだろう。

 マイマップ機能による情報漏えいは、「デフォルトで公開設定」になっていたのが原因だとする意見も当時多く聞かれた。「コンシューマー向けサービスだから(デフォルトで)公開設定、エンタープライズ向けだから非公開設定というように(しゃくし定規に)決めてしまうのではなく、サービスの特性を考えた上で公開や非公開といった設定を決めることが重要だと考えている」(ホロウィッツ氏)

 また、最近はサーバダウンなどによって提供する複数のサービスが利用しにくい状況になっていることにも触れ、「いつでも利用できることは最優先事項であり、(システムがダウンしないよう)毎日のように対策を考えている」とコメント。

 「(サービスの稼働状況が確認できる)Google Apps Status Dashboardなど、サービスの完全な透明性は我々が自慢できること。サービスがダウンすると大変困るのは(自社サービスを利用している)我々も同じことだし、人々が求める100%のアップタイムを実現できるようにしたい」

「Google Wave」――データタイプの違いを超えてサービスを融合

 Googleでは以前からGmailにビデオチャット機能を搭載したりGoogleカレンダーにタスク管理機能を搭載したりと、自社サービス間の連係を高めている。5月13日には、米Yahoo! MailやMicrosoftのHotmailなどの他社が提供するWebメールサービスから、Gmailに既存のメールやアドレス帳を簡単にインポートできるようになった。

 「私はAmazonやFlickrやGoogleのサービスを利用しているが、これらのデータはまだまだ、それぞれが独立した形で存在していて、それほど簡単にはリンクできない。ぜひこの問題を解決したい、それぞれのデータを自分の意思で自由に移動できるようにしたいと考えている」(ホロウィッツ氏)

 自由に移動できる――この答えの1つになりそうなのが、先日行われた開発者向けイベント「Google I/O 2009」で発表された「Google Wave」だ。「先週、Google Waveのプレビューを行った。例えばWikiであったりチャットであったりメールであったり、データタイプの違いを超えてこうしたものを融合していくためのサービスを提示した。Google WaveはAPIも大半のソースコードも公開し、世界のクリエイターと私たちの資産を共有しながら、こうした世界を大きくしていきたいと考えている」

 ホロウィッツ氏はこのほかに、「携帯電話やスマートフォン、Netbookなどデバイスごとにサービスを最適化して見せられるようにしたい」とコメント。「コンシューマーが実際に使っている端末に最も適した形式で情報をレンダリング(表示)する。このための情報はクラウドから持ってくる」。また、「サービスで扱っている数百億のWebドキュメントの統計情報を生かして、機械翻訳のクオリティ向上に生かしたい」とした。


 「クラウドコンピューティングでは、世界のスーパーコンピューターの能力を非常に短いアクセスタイムで使える。ペタバイト級のデータを駆使して、自分にとって必要な質問に応えてくれる、問題を解決できる。そういった効用が確かにある」

 ホロウィッツ氏は「クラウドの将来の方向性は、イノベーションのシーズ(Seeds)そのもの。クラウドに我々が積極的に取り組むことで、最新のテクノロジーを本当の意味で“民主化”できる」と強調した。

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