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» 2009年07月06日 15時00分 UPDATE

人を動かす話し方講座:怪談がうまい人は説明もうまい (2/2)

[水野浩志,Business Media 誠]
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怖い話、実践例

 ということで、さっきの男に襲われた話をもとに、上で説明したテクニックを使って表現してみると、こんな感じになるでしょうか。

 この間の夜、家に帰ろうと道を歩いていたら、後ろの方になんか気配を感じたんです。ふっと振り返ると、遠くの方にぼんやりと人影が見えるんですよね(視覚)。でも、すごく離れていたので、そんなに気にもせず、また歩き出したんです。

 ところが、数秒もしないうちに、カツ、ズーッ、っていう変な調子の足音が聞こえてきたんです(聴覚)。

 振り返ってみると、さっきずいぶん遠くにいたと思った人影が、かなり近づいてきていました。その人はフードを深くかぶった男のようで、片足を引きづりながらも、かなりの早足でわたしとの距離を詰めてきたんです(視覚)。

 わたしは怖くなって、足を速めました。でも足を引きずるような足音は、その不規則なテンポを速めながら、だんだん大きくなってくるんです(聴覚)。

 その近づいてくるスピードの速さに、さらに恐怖が増して、わたしは走り出そうとしました。しかしそのとき、着ていたコートのすそをぐっと引っ張られたかと思うと、後ろから羽交い締めにされてしまったんです。

 首筋に、男のハアハアという生暖かい息が当たり(触覚)ます。それは魚が死んだような生臭いニオイでした(嗅覚)。そして、耳元で

 「ユキコ……一緒ニ行コウ……一緒ニ行コウ」

 と言いながら(聴覚)、首を絞めようとしてきたんです。

 「わたしはユキコじゃない、人違いだ!」

 と叫ぼうとしましたが、男は口を手のひらで押さえようとして、その拍子に男の指が口に入りました。汗のしょっぱさと、砂のようなジャリッとした感覚が口の中に広がりました(味覚)。

 その感触に吐きそうになりながらも、男を振り切りたいわたしは、口の中に入ってきた指をガリッとかみました。男は叫びながら首を絞めた手を離し、わたしの口を開けようと、あごや口の周りをまさぐりました(触覚)。

 そのとき、羽交い締めがとけたので、わたしは振り返ってその男をけり飛ばし、そのまま猛ダッシュでその場から逃げたんです。

 その後、警察にもその話を伝えましたが、片足を引きずって歩く男はまだ見つかっていないそうです。


 いかがでしょうか。まあこの話は、比較的よくあるシチュエーションでの話ですから、それほど背筋が凍るほどの怖い話ではないかもしれません。しかしそんな話でも、時間の流れに沿って、五感で事実を詳細に表現し、なおかつ距離感を近づけていくように話すと、「男に襲われてチョー怖かった」という話し方よりも、数段身の毛がよだつ話になりますよね。

マインド:相手に追体験させ感情移入させることが人を動かすキモ

 実は、このように相手を自分の話に感情移入させることは、怖い話をするときだけでなく、営業の時やプレゼンの時など非常に有効な考え方なんです。

 例えば、自社のシステムが導入された結果、数値レベルで成果を見せることをやる人たちは結構いますが、導入後の使用感や、それを利用する社員の姿などを、五感に訴えるストーリーで語る人は、ほとんどいません。でもそれこそが、採否を決めるに当たっての一番の動機になります。

 人間は、感情でその気になり、その気になった行動を取るかどうかを理屈で判断する生き物です。ですから、理屈の上での優位性やメリットだけを見せても、導入しようかなという気にさせる動機付けが弱いと、仕事がとれません。

 だからこそ、まずは感情の動機付けを行う。自分の話に感情移入をしてもらい、導入したい、やってみたい、といった気持ちになるようなストーリーを作り上げる必要があるのです。

 その感情を揺さぶる話として、大変参考になるのが今回ご紹介した怖い話の語り方です。

 感情を揺さぶらずに、理屈ばかりの優位性を語っているだけの営業やプレゼンをしている人は、是非今回紹介した表現方法を、自身のビジネスに応用してみてくださいね。

著者紹介 水野浩志(みずの・ひろし)

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 マイルストーン代表取締役。「社会に活き活きと働く大人たちを生み出す」をスローガンに掲げ、リーダーシップやモチベーション創造、自己表現力養成をテーマにした企業研修や公開セミナーを実施。また研修・セミナー講師向けに、具体的な成果を生み出す効果的なカリキュラムの構築手法や講師としてのマインド、人間力創りの指導も行っている。現在、日刊(平日)で、メールマガジン「1回3分でレベルアップ! 相手の心を掴むトーク術」を発行中。


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