自利利他とオープンソース――創造的選択インタビュー全文公開(後編)達人のクリエイティブ・チョイス(4/6 ページ)

» 2009年07月24日 12時30分 公開
[鷹木創,Business Media 誠]

「適正な自己中心性」と「ソーシャル・リノベーション」

堀内 本(『クリエイティブ・チョイス』)の中で「適正な自己中心性」という言葉を紹介しています。チャールズ・ハンディという人が、もう1990年代の中盤ぐらいに言っているんですね。今の資本主義は荒々しすぎると。みんながみんな自分の利益を追求するととんでもないことになると。

 どうすればいいかというと、自己中心的なんだけど適正な自己中心性を持って、ということを。それって、まさに自利利他なんですよね。自分の利が結局社会の利になるような全体像を持って、自己中心性を追求していくことが大事だ、みたいな。言ってしまえば当り前の話なんだけど、でも今、ビニールバッグではなくエコバッグを選択するという、その効果がどれくらいあるかは別にして、社会とのつながりを意識した選択をどんどんしているというのが吉川さんの調査で定量的に分かったのは面白い。ちなみに「ソーシャル・リノベーション」というのは造語ですか?

吉川 造語です。社会修理。生活者はちょこちょこやっているんで、社会を修理している感じかなあと。まあ、キャッチコピーですね、ただ、それに企業の力が加わると、それはちっちゃい動きではなくてうねりになるのではないかと。そのうねりを表現したくて「ソーシャル・リノベーション」と名付けた。

 イノベーションと最近よく言われますけど、「修理・修繕」という意味を出したかった。「まだ捨てたもんじゃない」と思うわけです、調査してても、生活者の中に「お互い様」とか、そういう気持ちはまだあるし、企業にも、例えば「公器である」という考え方とか、米国の暴走する資本主義みたいな感じではない。あるいは近江商人に始まる話であるとか、いっぱい生かせる話がある。という意味でも、昔のまま新しくするんだという意味で「ソーシャル・リノベーション」とした。

堀内 改革、イノベーションというと定番な感じもしますけど、「リノベーション」というと……。

吉川 まだ捨てたもんじゃないなあ、という感じがしますよね。実際に調査して「あなたは世のため人のため地球のために何かしたことがありますか」という質問に対して52.9%が「はい」だった。これ講演していると面白くて、会場は「ええーっ!」とだいたいいう。もっと高いんじゃないのと、もっと低いんじゃないの、という人たちが同居している。

堀内 定義も難しいですよね。

吉川 僕らもさらに確かめたくて、資料を漁っていたら国がやっている調査で「あなたは世の中のために何か役に立ちたいと思いますか」という意識を聞く調査があるんですよ。1980年ごろからずーっと取っている。今回最高値を記録して、69.2%。意識で7割だから、行動が 5割はけっこういいんじゃないか。プレゼンでも合わせて紹介しているんですね。

細谷 3割は「そうでもない」というか。

吉川 意識ですか? そうです、3割は「いいえ」と答えている。その数字も史上最低なんですよね。でもそんなもんでいいんじゃないんですかね。全員が一緒だと気持ち悪いですし。

柳澤 人のためとかいったらもっと数字が高くでそうな気もするんですけどね(笑)

堀内 しかも過去1回でもやったらいいわけでしょ。

吉川 この調査で僕らが面白いと思ったのは、男性と女性の差がない。エコっぽいことを聞くと女性と高齢者が高くなる傾向がある。今回は若い方が高かった。理由は分からない。通常のエコの調査とは違いますね、としか言えない。

柳澤 若いってどれくらいですか?

吉川 10代とか20代。

柳澤 人のためにやっている印象があるんでしょうね、きっと。

吉川 あと総合学習の効果もあると思いますよ。ボランティアっぽいことやったり、ごみ収集とか。さっきの写真調査でも10代の、18〜9の男の子が撮ってきた写真はごみ拾いのボランティア。

堀内 安心の象徴として? へー、何を意味しているんだろう。

吉川 身近なところできちんときれいになっていることが安心です、と。

堀内 なるほど。

吉川 これがプレゼンのときに見せている写真です。個人情報の問題で顔を撮らないでくださいと伝えているんですけど、何とか家族を写したいようで、考えて、これ、家族の影なんですよ。それこそ、縛りを提供するからクリエイティブ・チョイス。

堀内 うまい落ちをつけますね(笑)

吉川 いえいえ(笑)。これ自分のところの畑ですね。これはソーラーパネル。アフリカの苗木とか、河川敷の菜の花とか。

堀内 ドラマがありますね。いろんな理由付けがありますね。

吉川 これ安心の写真だから1600枚見ても楽しかったんですけど、「私の不安」というテーマでマインドマップ書いてもらった時は、800枚見たんですけど気持ち悪くなっちゃってね。10代の子が親の介護とか書いちゃうんです。すごい世の中だなと。プレゼンでは使わないんですけどね。そんなことみんな分かってるはずだから。写真で何撮ってくるかを見せたほうがヒントになりそうなので、こういうのを見せている。

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