130ページで紹介した「ブレストのルール」(※)は、アイデア出しの会議において、創造的なアイデア創出を促進するガイドラインです。これは、1人で発想する際にも、創造的に考えるためのルールとして有効です。
ブレストは、正しくは「ブレインストーミング」といい、アレックス・F・オズボーンによってつくられました。ルールは4つに整理されています。日本語の表現では、いくつかのバリエーションがあります。ここでは、原典により近い表現を紹介します。
これは、「批判禁止」とも表現されます。
シンプルな言葉で説明すると、「ネガティブな判断を遅延しよう」ということです。
できそうにない、あるいはおもしろくないといった判断をするのは、アイデア出しの作業が終わるまでやめておきます。
ただし、厳密にいうと、「判断遅延」のルールには「ポジティブな判断」の遅延も含みます。
人間は、「これが最高のアイデアだ」と思った瞬間に、その先にあるより良いアイデアを考えなくなる傾向があります。「ポジティブな判断」を遅延することは、それを避ける効果があります。「それいいね」とか、「おもしろいアイデアだね」という褒める行為は、とても良い行動であり、ブレストにおいては重視してほしいのですが、褒めつつも、「その上にさらに良いアイデアをつくろう」という姿勢を保ってください。
これは、「自由奔放」とも表現されます。
シンプルな言葉で説明すると、「突飛なアイデアを歓迎しよう」ということです。
たいていの場合、突飛なアイデアの大半は使うことができません。しかし、突飛なアイデアをよく見てみると、モノや動き、価値性、視点など、何らかの新しいところがあります。
そのアイデアの未成熟なところではなく、新しいところに目を向けて、それをアイデアの広がる材料にする、と考えてください。
後でほとんど捨てることになる突飛なアイデアは、無駄ではなく、思考の多様性を担保する大事な役割をもったアイデアだ、という姿勢で活用してください。
これは、「量を求める」とも表現されます。
シンプルな言葉で説明すると、「質にこだわらずたくさん出そう」ということです。
人間ははじめは当たり前なアイデアを思いつきます。誰が考えてもたいてい思いつきそうなこと、どこかでもう実現していそうなこと、などです。そうしたアイデアは「これは言っても仕方ないな」とすぐに、自ら却下してしまうところですが、それも口に出す、あるいは紙に書き出すようにします。
外に出すことなく、頭の中で却下していると、そうした平凡なアイデアが何度も現われ、次第に同じことしか浮かんでこなくなります。けれども、口に出すなり、紙に書くなりして「頭から追い出す」ことで、次のアイデアが浮かんでくる状態がつくられます。良いアイデアが浮かばない、と思ったときには、思いつくことを書き出してみると、新しいアイデアが次第に思い浮かぶようになるでしょう。
また、人間の独創的なアイデアは、手前にある見つけやすいアイデア(当たり前のアイデア)の奥のほうにあります。そのため、まずは「手前にある見つけやすいアイデアを出し尽くす」必要があります。そうすることで、次第に、見つけやすいものがどんどんなくなり、奥のほうにある、見えにくかったアイデアを見つけられるようになります。
ルール3の状態になると、「アイデアを出し尽くしてもうこれ以上出ない」と感じるゾーンに入りますが、これが本来の創造力が働くゾーンになります。出し尽くしたと感じるところからさらに考え抜き、あと10個アイデアを出すようにすると、必ず良いアイデアが見つかるはずです。
これは、「結合改善」とも表現されます。
シンプルな言葉で説明すると、「既出のアイデア(ほかの人のアイデアや自分の出したアイデア)をヒントにしたり、組み合わせたりしながら、より良いアイデアをつくろう」ということです。
ほとんどの場合、1つのアイデアの周りには派生するアイデアが5〜10個くらいあります。それらは似ていますが、さらに連想させていけばアイデアはまったく別のものにたどり着きます。すでに出たアイデアの周りに潜む発想も明示的に拾い上げていくことで、可能性が広がります。
1人で考える場合、ほかの人に便乗ということはできませんが、自分がすでに出したアイデアから、発想の材料を得て、アイデアを出すようにします。
少し違えば別のアイデア、という姿勢で、ちょっとだけ違うアイデアもつくっていきます。
以上のようなルールに添って、アイデアを考えていきます。「ルール」という名称ではありますが、本質的には束縛をするものというより、「創造的なアイデアを作り出す活動のガイドライン」です。あなたの思考を創造的になるようにガイドしてくれます。
人は、一度にたくさんの新しいガイドラインを利用しようとすると、逆にパフォーマンスが落ちてしまいます。まずは、気に入ったもの1つだけを参考にしてみるだけでも結構です。それだけでも、普段のアイデア出しよりも質的に発想力は高まるでしょう。
あなたの会社で企画モノの商品としてA5のノートを大量につくりました。ところが、発注ミスで、全20ページ(10枚)しかない、薄っぺらなノートになってしまいました。このノートを売るアイデアを何とか考えてください。
ノートを破ってページをもっと減らす→1ページノート
ノート5冊を束ねてパンチで穴を開け束ねる→5分割OKノート
1日で使い終えるノート・365冊セット→日刊ノート
「それは誰が買うんだろう」「そんなもので十分な価格をつけられるだろうか」「それはアイデアとして成立しているか怪しい」などといった判断は遅延して、とにかくアイデアを出しましょう。
書く以外の用途に使う→使い捨ての鍋敷き
穴を開けてひもを通し、大きめのネームプレート→メモつきネームプレート
ほとんど書かないアイテムとして提案する→パスワード記録専用ノート
ノートどころか文房具ですらない商品アイデアも出ていますが、そういうアイデアも大事にしてそのまま書きとめます。
ノートの中身を1枚減らす→9枚ノート
2枚減らす→8枚ノート
3枚減らす→7枚ノート
1日で使い終えるノートの100冊セット→100日ノート
1000冊セット→1000日ノート
3653冊セット→10年ノート(うるう年3回分含み)
少し変えただけでも、「新しいアイデア」「別のアイデア」であるとして、書きとめていきます。
周囲を封止できるシールつき→20ページの手紙が書けるポストカード
うちわの形にする→メモもできるうちわ
コロンを染み込ませる→ノート型の香り発生アイテム
この3つは、「穴を開けてひもを通し、大きめのネームプレート」というアイデアで出た「加工して別のものに」という視点に便乗して、アイデアを出しています。
プロが行なう実際のブレインストーミングでは、このような項目に添って出すスタイルで行なうことはありませんが、初心者の場合、まずは4つのルールのうち、1つだけを意識してアイデアを出していくのも良い方法です。 次節では、ブレストをコンパクトにした便利な方法を紹介します。
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