「書くのが苦手」な営業を救う「文書化ワーク分担作戦」「ユニット式営業組織」のススメ(2/2 ページ)

» 2009年08月06日 13時24分 公開
[吉見範一,Business Media 誠]
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図2.激戦地でつぶれる前に武器をそろえろ

ここは野生動物の楽園です。普通の人間のあなたは今、水のある水源地を目指しています。持っているのは現金10万ドルだけ。ほかには車も銃もありません。生き残るために、まずはどんな戦略で進みますか?

 正直言ってまったく予想だにしていなかった内容でした。だって、営業セミナーなんですよ。東京都内で開く営業セミナーに、ライオンだのヒグマだのタイガーだの、想像できるはずもありません。

 そもそもヒグマとライオンがなんで隣にいるんだよ! というツッコミをぐっとこらえてわたしは開米さんに聞いてみたわけです。

吉見 こ、これを、どう使うんですか?

開米 なんだかわけ分かんないでしょう? これ。現実離れしたありえない話ですよね。でも、吉見さんがセミナーで最初に話してたことって実はこれなんですよ。

吉見 これ? これなんですか?

開米 そうです。要するに「有望な見込み客が多いところにはライバルの他社営業も多いから、そのライバルに打ち勝てるだけの準備をしていけ」という話ですよね。

吉見 そうそう、そういう話をしてました。

開米 水源地=有望な見込み客の多いところ、ヒグマやライオンなどの猛獣=ライバルの他社営業、勝てるだけの準備=人間の街に戻って武器と車を調達してくる……という論理構造なんです。

吉見 ははあ……。

開米 そこで、セミナーの受講生には最初にこのありえない話を2、3分考えてもらってから、こういう質問を振ってください。「みなさんの営業の仕事にとっての水源地はどこですか? そこにはヒグマみたいなライバルがひしめいてませんか? そしてそんな強敵と闘ってボロボロになってませんか? そいつらに勝てるための武器は何か、それはどこに行けば手にはいるか……分かってますか?」

 そしてわたしは次のセミナーでその通りやってみました。

 すると……効果てきめん!! 初回のセミナーではなんだか理屈は分かってもあまりピンときていないような感じだった受講生が、自分の場合に置き換えてリアルに考えている様子がヒシヒシと伝わってきます。すごい効果でした。そこでわたしは次の機会に開米さんに聞いたのです。

吉見 開米さん、すごいですよ、あれ! もうお客さんの反応が全然違います。いやあー、あんなやり方もあるんですねえ。びっくりです。

開米 そうですか、それはよかったです! いや実はですね、あの水源地の周りの猛獣の話って、非現実的なありえない話だからいいんですよ。

吉見 ありえないからいい……んですかっ??

開米 ええ、人が何かを考えて理解するプロセスって、「具体的事例→抽象化→その抽象概念を具体的事例へ適用」という順序をたどるものですけど、あの「水源地と猛獣」話は「抽象化」にあたるところなんですよ。

吉見 なるほど、そうですね、確かに……。

開米 思いっきり非現実的な話にすると、これが抽象概念だよってことが言わなくても通じるんです。しかも、抽象概念を語ってるのに理屈っぽくならずに済む。理屈っぽい話ってあんまり聞きたくないじゃないですか。いかにも難しそうで、喋るほうもしんどいですよね?

吉見 そりゃそうですよ、ほんと、しんどいです。

開米 それが、ああいう演出を一発かましてやると、理屈っぽさが吹き飛んで、ある種なぞなぞ感覚で気楽に考えられるようになるんです。それには、非現実的な話のほうがいいんです。

吉見 へえーーーーー!!

 本当に驚きました。これが実は「シナリオ」の持つ威力の一例です。素材をそのまま出すのではなく、そこで伝えたいテーマに一番ふさわしい「シナリオ」として組み替え、演出を施して出すと、素材の伝達力が2倍、3倍、10倍にもなる、ということが珍しくないわけです。

効き目のある「シナリオ」を考えるのは難しい

 だから、シナリオをきちんと考えようよ! ……と言いたいところですが、これが難しい。独特のノウハウ・経験を必要とするワークなので、どう考えても、誰にでもできるような仕事じゃありません。営業所に10人いたらきっとできるのはそのうち1人か2人です。じゃあどうするか? 残りの8人もこれができるように育てるのはまず無理です。であれば……

  • 得意な人にやってもらえばいい

 んです。幸いなことに、文書というのはコピーして持ち歩けるものです。ヒアリングは人が行って聞かなければなりませんが、文書はうまい人が作ってくれればそれをみんなで使えます。ヒアリングの下手な営業では仕事になりませんが、文書化能力はイマイチでもなんとかなるのです。

 ただし、会社がそういう体制になっていれば、です。

 客先に出向く「営業マン」が必要とするツールは何か? をきちんと分析し、それを得意な人に作らせてみんなで使う、という体制を組めていれば、1人1人の営業マンががんばって顧客事例を作らなくてもいいはずですね?

 実際、わたしはそれを実践していたことがありました。わたしが某社の営業店に雇われていたときは、自作の営業ツールをほぼ全員で使うようにした結果、最下位クラスだった支店の営業成績が全国上位に上がったのです。その経験を踏まえて「営業所長」を任された次の仕事では、それぞれの得意技を生かすようにチーム編成を考えました。それが「奇跡の無名人たち」「大口兄弟の伝説」という成果を挙げられた理由です。

文書化ワークも役割分担してしまおう

 結局、「役割分担をしましょう」ということです。この連載当初からお話ししている「ユニット営業」も、根本は2人で役割分担をして営業をしよう、ということでした。この「役割分担」は、客先だけではなく、バックヤードでも大事なんです。営業マン1人にすべての責任を持たせて競わせるのではなく、営業のプロセスをきちんと考えて、営業が必要とするツールを供給できるようにバックアップする体制を組むことが大事です。そのために必要なことのひとつが「文書化ワークの分担」なのです。

 高額商品や難解なシステム商品を売ろうとするときには、商品紹介パンフレットだけでなく、企画書やら顧客事例やらシミュレーションやら、さまざまな文書を提出しなければならないのが通例です。あなたの会社では、その文書作りを営業マン個人の責任にしていませんか? それを本当に個人任せにしていていいものか、今一度考えてみてください。

著者紹介 吉見範一(よしみ のりかず)

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 初対面の人を前にすると全身に汗をかくほどのあがり症で営業には不向きな性格だが、ツールを多用する独自の方法を発見し注目される。現在「シロウトをプロにする」営業コンサルタントとして全国の講演で活躍中。著書に『「売れる営業」のカバンの中身が見たい!』がある。


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