インタビュー
» 2009年08月10日 09時38分 UPDATE

ひとりで作るネットサービス:斬新とは省略すること――「AR三兄弟」川田さん (1/2)

TwitterやWebスカウターと連携したユニークな拡張現実(AR)サービスを展開するクリエイティブ集団「AR三兄弟」の川田さん。iPhoneアプリ「セカイカメラ」の“省略しまくり”の世界観に衝撃を受け、ARに関心を持ったという。

[田口元,Business Media 誠]

 ひとりで作るネットサービス第43回は、拡張現実(AR)を用いた画期的なWebサービスを展開するクリエイティブ集団「AR三兄弟」をとりあげる。大企業系列会社の一部門でありながら、新しい技術やサービスに果敢に挑戦する彼らの狙いはどこにあるのだろうか。AR三兄弟「長男」の川田十夢さん(32)にお話を伺った。

「省略しまくり」のセカイカメラに衝撃

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 「好きな言葉に『斬新とは省略することである』というものがあります。そういう意味ではセカイカメラは衝撃的に斬新でした。なにせ“省略しまくって”いますから」

 2008年に発表されたセカイカメラはARを活用した画期的なサービスである。iPhoneのカメラを通して周りを見ると、ほかの誰かがそこに残した情報が浮かび上がってくるというものだ。日本のベンチャー企業でありながら、米国のTechCrunchにも取り上げられて注目を集めた。

 「今までワンクリックをいかに省略するか、ということを考えていました。でもセカイカメラはそうした操作でさえも省略しています。のぞき込むだけ、というインタフェースは実に斬新だと思います」。セカイカメラに衝撃を受けた川田さんはすぐにARの勉強に取り掛かった。

 最初はセカイカメラとなにか連携できるサービスがないか、と考えた。しかしARを勉強していくともっと違う方向性もあるのではないか、と川田さんは思い至る。「セカイカメラは確かに斬新です。しかしそこに映る情報はセカイカメラを使って新たにタギングしていかなくてはいけません。一方僕たちはすでにネット上に蓄積されている情報をいかに現実世界に映し出せるかを追求してみたいのです」。同じAR技術ではあるが、すでにあるネットサービスとのマッシュアップを狙っていくことにした。そしてそのための実験をするために立ち上げたユニットが「AR三兄弟」だ。

 「AR三兄弟」では現在3つのサービスをリリースしている。いずれもマーカーを印刷し、Webカムなどでのぞき込むと映像にオーバーレイする形で情報を表示するというものだ。第一話ではTwitterとのマッシュアップを実現した。Twitterのユーザー名を入れるとWebカムで映したマーカー上に最新のつぶやきが現れるというものだ。デモムービーではマーカーを印刷したTシャツからつぶやきが飛び出す様子を見ることができる。

 また第二話ではTwitterに加え、自分の年表を気軽に記録できるサービス「NENPYO」とのマッシュアップも可能にした。さらに第三話ではサイトの影響力を計測するWebスカウターと連携し、RPG風にTwitterアカウントを対戦できる機能を作り上げた。他サービスとのマッシュアップを通じてAR技術の可能性をさぐる実験を続けていくという。現在は十話ぐらいまでの構想はできあがっているそうだ。

AR3Bros episode-i | twitter & AR from ar3bros on Vimeo.

Twitterとマッシュアップした第一話。AR三兄弟のWebサイトで公開しているマーカーを印刷し、Webカムを設定したら準備は完了だ。フォームにTwitter IDを入力し「ON AR」ボタンをクリックしてから、マーカーをWebカムに映してみよう。入力したIDのアイコンと自己紹介文がAR世界に表れ、投稿したつぶやきがほぼリアルタイムで反映される(動画はオルタナティブデザインAR三兄弟のWebサイトで公開しているもの)

AR3Bros episode-ii | twitter & NENPYO & namecard & AR from ar3bros on Vimeo.

NENPYOとマッシュアップした第二話。「ユーザーが生きてきた証」の年表をAR三兄弟がARスタイルで紹介してくれる。デモ映像のように、AR三兄弟の名刺(非売品)をWebカムに向ければ、「ちょっとした南くんの恋人気分を味わえる」

AR3Bros episode-iii | twitter & WebScouter & Hatena & RPG & AR from ar3bros on Vimeo.

Twitter、RPG、Webスカウター、はてなとマッシュアップした第三話。「かいしんの一撃の確率を決める命中率がfollower数÷発言数であったり、攻撃の先攻後攻を決めるすばやさが他人の発言をふぁぼっている数であったり」するそうだ

 この「AR三兄弟」、長男の川田さんに加え、次男、三男がいるが、彼らはいずれも同じメーカー系列会社の社員である。ユニークなのはこうした活動が仕事として認められていることだ。メーカー企業に在籍しつつも、こうした独自のポジションを獲得するまでには川田さんのさまざまな苦労があった。

ガスの供給管工事のバイトで3Dを学ぶ

 川田さんと話していて感じるのは彼のスキルの幅広さだ。Webページを作る技術、イラストやデザインのほかに、サーバ管理もプログラミングも、Flashも音楽も3Dもできるという。音楽は自分で作曲までこなしてしまうほどの実力派だ。またARのような新しい技術にも臆することなく取り組み、すぐに自分のものにしてしまう。彼のこうした能力はどういった経歴から来ているのだろうか。

 川田さんが初めてPCに触ったのは大学生のとき。それまでは音楽にはまっていた。3歳から10歳までは民謡の教室に通っていた。そのころから音楽に興味を持ち始め、バンドを組んだり、街頭で弾き語りをしたりした。

 大学に入ってからはサンプリングにはまり、独自の音源を求めて試行錯誤する日々だった。「例えばボウリングの玉があたるときの音ってありますよね。その音をとりたくてボウリング場の裏に入らせてもらってマイクで集音したりしました。そのときはマイクがボールにあたって壊れてしまったのですけどね」。当時の思い出を川田さんはそう語る。ほかにも「動物の鳴き声をとろうとしてちっとも動物が鳴いてくれなくて困った」こともあったという。

 当時は素材CDなども手に入りづらく、マイクや機材を自分で買いそろえる必要があった。しかしそれにはお金がいる。そのためデザイン会社でバイトを始めた。そこで出会ったのが初めてのPCだった。バイトでは主にIllustratorPhotoshopを使ったDTPの仕事を請け負った。しかし「当時は見た目も悪くて生意気すぎたので」、同僚からなかなか仕事を振られることがなかった。そこで自分で出入りの業者に声をかけては直接仕事を受注していたという。こうして受注した仕事はデザインのほかに、当時需要が出始めたWebの仕事も含まれていた。

 そうしたバイトで音楽活動を支えることができたが、ある時期から音楽への興味を失っていった。「音楽を突きつめていくとCDデビューといったことになるのですが、その契約のあり方に違和感を覚え始めたのです。どこかと契約してCDにしてしまうと自分の音楽ではなくなってしまうからです」。音楽への情熱が消えてしまった川田さんはデザインのバイトにのめりこむようになった。

 バイトの日々を過ごすうちに、デザインのスキルとPCを扱う技術を覚えた。また同時に行っていたガスの供給管工事のバイトでは3Dの基礎を学んだ。「地下に埋まっている電話線や下水道、それらを避けながらいかに最小の部品でガス管を通していくかを立体的に考え、図面に起こしていく仕事でした」。こうして短期間ながら川田さんは営業、デザイン、Web、PC、3Dのスキルを身につけていった。

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