部下が上司の仕事を「やり過ごす」ことは日本企業に多いという。「やり過ごし」の背景に、長期的成功を果たせる組織メカニズムがあったことを示したのが『できる社員は「やり過ごす」』である。
部下が上司の仕事を「やり過ごす」ことは日本企業に多いそうだ。欧米流から見れば無駄でしかないのに、なぜだろう。「やり過ごし」の背景に、長期的成功を果たせる組織メカニズムがあったことを示したのが『できる社員は「やり過ごす」』である。経営組織論の研究者である高橋伸夫氏が著者。
退職願望率の違いを示した図を見て頂きたい。
縦軸は、職務への満足度。横軸は、将来的な仕事の見通しを示している。現時点が左下にいるとする。今の仕事に満足させるか、今は不満だけど将来への見通しを与えるか、どちらが退職率を下げられるだろう。統計データによれば、見通しを高める側に軍配があがる。
なぜなら、成長とやりがいが得やすい環境になるからだ。見通しがきけば、中間管理職は部下の「尻ぬぐい」をする余裕が生まれる。そのため部下に失敗させたり、適度に「やり過ごし」できるか試せる。だが成果主義企業では部下を育てるような時間はない。そのため今は給料が高くとも自分の成長は見込みづらいから、優秀な人材ほど外に出やすくなる。日本型の年功序列は、長い視野に立てば合理的な経営手法とも言えるのだ。
異なるケースもある。私の古巣のマッキンゼーは成果主義だったが、優秀な人ほど会社に残る仕組みだった。なぜなら、成果を出す人間は急激に責任が増加し出世もし、結果としてマッキンゼー退職後の見通しが高まるからだ。優秀でないとマッキンゼー内では成長できないから、早めに転職した方が合理的となる。雇用流動性が高い環境ならば、成果主義も生かせるのだ。
RCF代表取締役。一橋大学卒業後、バー経営、マッキンゼーを経て独立。「100年続く事業を創る」をテーマに講演・コンサルティング活動に従事。創業前の若者に1億円投資するスキームを企画運営し、話題を呼ぶ。「雇われ経営参謀」として500人以上の経営・企業相談を受けてきた。ブログに毎日書評を掲載し、現在1000冊超。
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