ドン・キホーテの新任店長を驚かせた、“業績を上げる”言葉遣い人を動かす話し方講座

言葉というのは恐ろしいもので、何気なく使っているものでも、その使っている言葉によって、その人自身の思考に大きく影響してしまいます。あなたは普段「顧客の立場に立って考える」なんて言っていませんか?

» 2009年10月21日 14時09分 公開
[水野浩志,Business Media 誠]

 普段、ビジネスシーンで何気なく使っている言葉。この言葉遣いによって、業績のいい人と悪い人とが、ある程度分かります。今回は、業績を左右する言葉遣いについて考えてみたいと思います。

長崎屋の店長、戸惑う

 先日、テレビ東京系列のドキュメンタリー番組「ガイアの夜明け」をみていたら、老舗スーパーの長崎屋が、ドン・キホーテに買収され、新しく「MEGAドン・キホーテ」へと変わっていく話が放送されていました。

 元長崎屋の店長が体験する、「激安」を超えた「驚安」ショップという、全く新しい業態へと変わっていく中での苦悩と戸惑い、しかし、それでも何とかその変化に対応しようと頑張っている姿が描かれていました。

 その中で、非常に印象的なエピソードがありました。それは、普段長崎屋で働く人々が当たり前のように使っていた「売り場」という言葉遣いを、違う言葉に変えたという話です。

 あなたは、「売り場」という言葉が、どのように変わったか、そしてその理由が想像つくでしょうか?


「顧客の立場に立って考える」というウソ

 私が企業研修、特に営業の方たち向けの研修をやっているとき、非常に気になる言葉があります。

 それは、「顧客の立場に立って考える」というもの。ほかにも、「顧客の利益を考えて」とか「顧客第一」といったように、とにかく顧客側の立場に立って考えようとする言葉が、たくさん聞こえてくるのです。

 もちろん、これらの言葉そのものについては、全く問題がありません。むしろ素晴らしい言葉であると言えるでしょう。

 しかしながら、「顧客の立場に立って考える」と言っている人が、その言葉と一緒に、「顧客攻略」とか「いかに自社商品を顧客に押し込むか」といったような「顧客の立場に立って考えていない言葉」を平気で使っているんですよね。

 さらにゆゆしき問題があります。それは

  • この全く矛盾しきった言葉を使っていることに本人が気づいていない

 ということ。たいていは、私やスタッフがそのことを指摘したときに、初めて彼らは、自分たちの言葉遣いの矛盾に気づきます。そして、この矛盾した言葉遣いをしているうちは、まず間違いなく業績を上げることはできないのです。

自分の言葉が自分の思考スタンスを決める

 言葉というのは恐ろしいもので、何気なく使っているものでも、その使っている言葉によって、その人自身の思考に大きく影響してしまいます。

 例えば、「顧客の立場に立って考える」という言葉そのものは、文字通り顧客の立場に立って考えようと言う表現となります。しかし、「顧客の立場に立って考える」という言葉自体が、もう顧客の立場ではなく、売る側の立場に立っている言葉になっていることにお気づきでしょうか。

 だから、この言葉を使っているうちは、無意識下で顧客の立場に立たず、自分の立場、自社の立場に立って考えているから「顧客攻略」とか「自社商品を顧客に押し込む」という矛盾のある言葉を、平気で使ってしまうんですよね。

 そして、こういった矛盾した言葉遣いをしている人たちが出してくる提案は、たいていの場合、顧客にとってメリットが弱く、とてもじゃないけど欲しくなるようなものがあがってこない、といったことになってしまうのです。

 特に今の時代、顧客にとって利益やメリットがはっきり分かるものでなければ、購入されることはないでしょう。そのためにも、徹底的に顧客にとっての利益、顧客の求めるメリットを考え抜くことが求められます。

 そのために、まず必要なことは、本当の意味で「顧客の立場に立って考え抜く」ということです。そこで、普段の言葉遣いから、「自分の立ち位置ではなく、顧客の立場に立つ言葉遣い」をしていく必要があるのです。

 冒頭に書いた「売り場」という言葉。これは、商品を売る側の立場に立ったものです。ドン・キホーテでは、この言葉を、顧客、いわゆるお店に来るお客様の立場に立った言葉である「買い場」という言葉に代えていました。

 ちょっとした言葉遊びのように思うかもしれませんが、この言葉に代えるだけで、ものの考え方、見え方は大きく変わってくるのです。

 であるならば、「顧客の立場に立って考える」という言葉は、どのように言い換えたらいいでしょうか。例えば、

  • もし自分ならどう考える?

 という言葉に代えてみるのも、ひとつの方法かもしれません。

 顧客の置かれた状況を調べ、そのときの気持ちを自分自身のこととして受け止め、その上で、自分自身はどう考えるのかということを、当事者意識を持って探っていこうとするのです。

 そのための一歩として、まずは「自分ならどう考える?」と言う言葉を、自分に向けて使うことで、本当の意味で「顧客の立場に立って考える」ことができるスタートラインに立てるわけです。

 顧客の立場に立って考えているつもりでいながら、顧客から受け入れられない人、提案が通らない人は、ぜひ、「もし自分ならどう考える?」と言う言葉を使って自らに問いかけ、そこから顧客の本当のニーズを考え抜いてみて下さい。

 きっと今までとは違った考え方ができるはずですから。

著者紹介 水野浩志(みずの・ひろし)

 マイルストーン代表取締役。「社会に活き活きと働く大人たちを生み出す」をスローガンに掲げ、リーダーシップやモチベーション創造、自己表現力養成をテーマにした企業研修や公開セミナーを実施。また研修・セミナー講師向けに、具体的な成果を生み出す効果的なカリキュラムの構築手法や講師としてのマインド、人間力創りの指導も行っている。現在、日刊(平日)で、メールマガジン「1回3分でレベルアップ! 相手の心を掴むトーク術」を発行中。


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