インタビュー
» 2009年12月02日 18時30分 UPDATE

初めての卒業生――サイバー大学に社会人教育を聞く

あのサイバー大学に初めての卒業生が――。3人の卒業生の進路も決まりつつある。同大学の前川徹教授(ITビジネス経営論など)に話を聞いた。

[鷹木創,Business Media 誠]

 2007年4月にオープンしたサイバー大学が、2010年春にいよいよ初めての卒業生を送り出すという。卒業生の3人は、いずれも社会人学生で、進路も決まりつつある。そんな卒業生を研究室に抱える前川徹教授(ITビジネス経営論など)に話を聞いた。

「サイバー大卒」にとどまらない――卒業生の最終学歴

st_sd01.jpg 前川教授

 「サイバー大学は株式会社立だし、ソフトバンクの関連企業だし、卒業したら最悪ソフトバンクに就職したことにすれば、就職率も上げられるんじゃないか」――筆者もそんな風に思っていたことがあった。ところが、2010年3月に卒業する学生のうち、前川教授が教えている2人は大学院を目指し、1人はすでに決まった。法政大学大学院の経営学研究科、いわゆるMBAだ。もう1人ももうすぐ試験だという(11月現在)。

 大学院への入学が決まった学生はサイバー大学に入る前の最終学歴は高卒。金融機関のコンピュータ・オペレーターとして働いていたが、これからはコンサルタントになりたいと一念発起。卒業までに通常4年(最大12年)かかる通信制のサイバー大学を3年で卒業し、法政大学の大学院も1年で卒業するつもりだという。順調に行けば、普通の大学を卒業する4年間で学士、修士までを取得する予定なのである。

 「(この学生は)もともと金融企業にいたが、現在は福祉関係の企業に転職していて、比較的夜はきちっと帰れる。必ず早めに寝る代わりに、朝4時ぐらいに起きて、ぐわっと勉強するようだ」(前川教授)。サイバー大学卒業でとどまらず、大学院を狙う学生も少なくないのだ。

 気になる学費は単位ごとで、1単位2万1000円。卒業までに124単位が必要なので、卒業までには260万4000円が最低でもかかることになる。入学金(10万円)や入学検定料(1万円)を足すと270万円ほどかかる計算だ。12月1日〜1月28日にかけて申し込めば早期出願として入学金を免除されるが、それでもそんなに安い金額ではない。ところが高卒から大卒に最終学歴が変わることで給与水準が変わる場合もある。実際卒業生のうちの1人は学歴で給与体系が異なる会社に勤めていたことが入学のきっかけだった。1年間70万円の投資で、その後のスキルアップ、レベルアップにつながるという考えなのだ。

3年かかって実感――インターネットで教えること

st_sd02.jpg サイバー大学のWebサイト

 前川教授がサイバー大学で教えるようになったのは、前IT総合学部長だった故石田晴久氏(東京大学名誉教授)に請われてのもの。「インターネットで教えるから、時間が自由になるよ」と言われたという。サイバー大学の最大の特徴はオールインターネット。通学が不要で、インターネット上のやり取りですべての学位が取得できることだ。

 1つの学期は15週間。1週間ごとに新しい講義をネットで配信する。配信期間は2週間で、その期間内に学べばいい。教授が説明するいわいる講義スタイルだけでなく、小テストやリポート、ディベートなどの形式もある。例えば60分の講義と小テストを15回繰り返し、期末にリポートを提出――という組み合わせが基本。講義によっては、ディベートルームで議論も可能だという。

 「通学の大学だと風邪を引いて休んだら、その講義を2度と聞くことはできない。仕事が忙しい週に休んだとしても、サイバー大学なら配信期間中に勉強できればキャッチアップできる。講義中にウトウトしたらもう1回聞き直せばいいし、特に英語は、分かりにくい発音も何回でも繰り返せる」(前川教授)

 ただ、故石田氏の行った通り時間の自由度は高かったが、インターネットで教えることは簡単ではなかった。例えばQ&Aやディベートである。掲示板のようなシステムで教授と学生がやり取りするQ&Aだが、当初は肝心の質問が集まらなかった。というのもそのころのシステムでは、Q&Aの情報に学生を特定できる名前などの情報が付いていたからだ。「インターネットとはいえ、(学生が)周りの様子をうかがって質問を控えていたようだ」という。そこで、学生からの質問については匿名にして、ほかの学生には誰が質問したかを分からないようにしたところ、ぽつぽつと質問が出始めたのだ。

 「学生にとっては、質問した人の情報はそれほど必要じゃない。むしろその内容が勉強になる。質問があって、答えがあって、その状況をシェアしていく。本来の大学の形だけど、むしろインターネットのほうがいいのかもしれない」

 最初はディベートも盛り上がらなかった。「書き込みがなければ、質問もない。みんな様子見」の状態である。前川教授も試行錯誤して、最近どうやらディベートを盛り上げるコツも分かってきたという。「演習でディベートだけを設けるとだめ。同じ内容の課題を事前に出すほうがいい」。例えば、第5回の講義で「言論の自由人権侵害の関係について」というリポートを出させる。その第6回の講義でディベートをさせる――というわけだ。以来前川教授の講義は、「リポートを出させてディベート、リポートを出させてディベート」というパターンになった。

 学習に悩む学生にアドバイスするメンターも変わった。当初はメンターの書き込みが少なかったが、最近は「すっかり冬になりましたね。もう第8回目で折り返し地点ですけど、皆さん頑張ってますか」などと積極的だ。メンター向けの研修で、ノウハウを共有しているという。「いきなりインターネットの教育と言われてもなかなかできない」と前川教授。開校以来3年目、教える側の指導方法もようやくこなれてきたのかもしれない。

IT and Business――ITが分かるビジネスマンに、ビジネスが分かる技術者に

 「IT総合学部という名称からはよく分からないかもしれないが、英語だとFaculty of Information Technology and Business。今までの情報系の学科は、情報工学科、情報システム学科などテクノロジーしか学べない。でもそれだけだとやっぱり不足。ITは社会とのつながりがものすごく大きい技術なので、それがどうやって社会とつながっていくかを学べなきゃいけない」(前川教授)

 確かに文系の大学を卒業したのに、理系の仕事をしている人も多い。こういう人の悩みが「PCやインターネットのベーシックな仕組みが分からないこと」。故石田氏が繰り返した「ITが分かるビジネスマン、ビジネスが分かるIT技術者を育成する」――。そうしたニーズに答えるのがIT総合学部というわけだ。

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