「社員の頑張り」を見える化する「現場の仕事」を見える化する

「インプットはデジタル、アウトプットもデジタル」で、業務の効率化を図ってきた「武蔵野」。しかし、社員のモチベーションを上げるためには、アウトプットはデジタルよりもアナログのほうがふさわしいのです。

» 2009年12月21日 15時00分 公開
[小山昇,Business Media 誠]
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 長引く不況の中、自社の経営に悩みを抱えている中小企業の経営者が多いのではないでしょうか。そんな中、経営の内部を社員に公開し、徹底的な透明化(=見える化)を継続することで、社員のモチベーションを高め、増収増益を達成した会社があります。それが経営サポート事業などを行なう武蔵野です。「中小企業のカリスマ」と呼ばれる同社の小山昇社長が「現場の見える化」の方法を伝授します。3回目は、現場のコミュニケーションがよくなる「現場百回帳」をご紹介しましょう。


この連載は書籍『経営の見える化』から抜粋、編集したものです


インプットはデジタルで、アウトプットはアナログで

 情報の入力(インプット)と出力(アウトプット)をデジタルにすれば、世界中どこにいてもデータを活用できます。その結果として、業務の効率化とスピードアップを図ることが可能です。

 「武蔵野」が、電子メッセージ協会会長賞(1999年度)、日本経営品質賞(2000年度)、経済産業省大臣賞(2001年度)、「IT経営百選」の最優秀賞(2004年度)など、IT系の賞を総ナメにできたのも「インプットはデジタル、アウトプットもデジタル」にしたからです。

 「武蔵野」では、情報(社内の稟議)をデジタルで管理し、使いまわしできるようにしています。例えば、社員に子どもが産まれたら家族手当をつけますが、申請書はWeb上にあるので、プリントして社内ファクスを送れば申請完了です。

 出張に行った場合は、出張清算をしなければいけません。出張清算に必要な書類もWeb上にあります。社員はだいたい似たような場所に出張に出向くため、以前のデータを残しておいて、日付と固有名詞と金額を変えれば、すぐに出張清算ができてしまいます。見積書も同じ。お客様の名前と金額を入れればでき上がりです。

 ファクスは、2002年からすべてサーバで取っています。社内がイントラネットになっているので、ほかの営業所に転送するのも簡単です。「一度プリントアウトして、それをさらに送りなおす」といった手間がかからず、紙代や電話代を節約することができます。しかも検索機能がありますから、ファクス送信者の情報をすぐに取り出すことも可能です。

 ところが、IT活用のしくみ作りを進める途中で、私はひとつの間違いに気がつきました。

 「インプットはデジタル、アウトプットもデジタル」という考え方は、あくまでも「データを活用したり、作業効率を高めるうえで有効」なのであって、「社員のモチベーション」を高めるためには「インプットはデジタル、アウトプットはアナログ」のほうが適していることに気がついたのです。

 情報(=もの)を扱うならデジタルでアウトプットしてもいいけれど、感情(=心)に働きかける場合は、アナログでアウトプットしたほうがいいようです。

 なぜなら「見たら分かる」と「見た」は違うから。

 例えば、「武蔵野」では、社員一人ひとりの評価がイントラネット上に公開されており、「誰でも、見たら分かる」ようにインプットされています。給与がいくらだとか、賞与がいくらだとか、社長が接待交際費を使ってどこのキャバクラに行ったかとか、すべてオープンになっているんですね。

 ところが「いつでも、誰でも、閲覧できる」状態にしておくと、「いつも、誰も、閲覧しない」。つまり、逆説的ですが「社員の頑張り」が正しく「見える化」されないということになりやすい。

「現場百回帳」で、現場の仕事を見える化する

 経理課長だった社員が営業課長になった場合、現場のことが分かっていないため、部下にトンチンカンな指示を出すことがあります。すると部下は「分かってないな〜」と、やる気をなくしてしまいます。ですので課長は、まず「現場の仕事」を覚えなければいけません。そこで私は、「現場百回帳」という表を用意しました。もちろん、アナログです。

 課長は、自分の部下と一緒に現場をまわり、部下に仕事のやり方を教えてもらいます。そして部下は、ポスト・イットに日付と名前を書き込み、「現場百回帳」に貼り付けていくのです。こうすれば、課長が仕事を覚えることができます。

 50回目くらいになると、変化があらわれます。何が変化するかというと、回数が増えることによって、課長と部下のコミュニケーションがよくなるんですね。時と場所をともにすることで、価値観を共有できるんです。

 私は、毎月「現場百回帳」をチェックしますが、そのとき、回数がなかなか増えていない場合は、「反省」をうながします。なかには、「坊主」にしてくる社員もいますが、これもいわば「反省を見える化」しているわけですね。ちなみに私も「武蔵野」で2回坊主になっていますが……。

 また、キャンペーンなどのグラフを作るときは、前ページを見ていただければ分かるように、「効率悪くグラフを作る」ようにしています。棒グラフが出っ張っていると、「頑張っていること」がすぐに見えるからです。

 人間は、変化が見えないとアクションを起こせません。そして変化を見せるためには、デジタルよりもアナログのほうがふさわしいのです。

著者紹介 小山昇(こやま・のぼる)

 株式会社武蔵野の代表取締役社長。その経営手法には定評があり、2000年に日本IBMと並んで、日本経営品質賞を受賞した。「中小企業のカリスマ社長」と呼ばれ、現在は全国300社以上の中小企業に経営のサポートを行っている。


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