Web上に仮想の本棚を作成できるサービスはいくつもあるが、「名言を共有する」というコンセプトの「InBook」は、TumblrやTwitterにも近いような性質を持っている。
Web上に仮想の本棚を作成できるサービスとしては、メディアマーカーやブクログなどが有名だ。2009年10月に公開されたばかりの「InBook」もそうしたWeb本棚サービスの1つだが、「本やマンガの名言(好きなセリフ)を共有する」というコンセプトは、TumblrやTwitterにも近いような性質を持っている。
Web本棚サービスには、大きく分けて2つの役割がある。1つは、読んだ本をジャンルや読了時期ごとに整理し、コメントを付けて備忘録として使う「蔵書管理の場」としての役割。もう1つは、自分の趣味嗜好に近い(他人が作った)本棚を探し、レビューをチェックして読みたい本を探す「情報収集の場」としての役割だ。
「読んだ本を“名言付き”で管理する」というInBookの仕組みは、シンプルながらこのどちらの役割にも適しているようだ。
まずは蔵書管理としての役割。「読書をしても読みっぱなしでは意味がない」とよく言われるが、分かってはいても、レビューや気付きを読んだ本ごとにまとめておくのは手間がかかるもの。その点、読んでいてピンときた個所を抜き書きするだけならばハードルは低い。
「どうしてもレビューを書かなければならない」という気持ちがあると、読み終わってから時間が経った本では「内容をもう忘れてしまったから……」などとつい言いわけしたくなるものだが、抜き書きならば読みながら付せんを貼るか、マーカーで印を付けておくだけでいい。
こうして、「読んだけれどWeb本棚には登録しなかった」という、蔵書管理を考える上で一番避けたい事態を防ぐことができる。Twitterで@inbook_jp充てにつぶやくだけで投稿できるのも使い勝手がいい。
「情報収集の場」として考えても、InBookはなかなか興味深い。Amazon.co.jpや一般のWeb本棚サービスでは「気になる本があるから、そのレビューを見てみよう」という順番がほとんどだが、InBookの場合は「気になる名言があるから、この本を読んでみよう」という順番になるわけだ。つまり、気になる本が特にない状態からの本探し、「なにかおもしろい本はないかなー」というウィンドウショッピング的な本探しに適している。
また、レビューというのはどうしても読者の主観を含む(それこそがレビューを読む意味とも言える)わけだが、InBookのように「本文の抜粋」という形であれば、あくまでも「自分がその文章を気に入るか気に入らないか」だけで未読本を評価できる。「レビューでは評判が悪いから、この本は読まないでおこう」といった事前の判断を下しにくくなり、良書と出会うチャンスが増えるかもしれない(もちろん、「レビューが良いから買う」といった探し方もあるわけで、それがないという意味では一長一短とも言えるのだが)。
この記事を書いている12月25日時点では、InBookへの引用セリフ数は2613、引用本は1094冊、登録者数は649人。既存のWeb本棚サービスと比べればまだまだ規模は小さいが、こうしたサービスは利用者が増えれば増えるほどおもしろさも増していくはずだ。先月のiPhone対応に続き、今後のさらなる展開を楽しみにしたい。
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