「紙とペンの間にはエロスがある」――文具マニアが日本製品の美を語った郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)

» 2010年01月07日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]
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背表紙に美学あり

 私が持ち込んだのはコクヨS&Tの「測量野帳」。野外記録に重宝するしっかりとした表紙、180度見開きで書ける機能性、必要十分な量(40枚/80ページ)。まさに名品と自信を持って提出すると、文具王は意外な点を指摘した。

 「たった5ミリだけど、背表紙があるのが保存にいい」

 同じメモ帳を使い続けて、本棚に並べれば“メモのアーカイブ”ができる。その時に背表紙があれば、内容や使用期間を示すテプラを貼れるというのだ。ズサンな私は気付かないポイント。

 浮気性がぎっしり詰まる私のメモ保存箱を開けてみると、背がないリングメモやホチキス留めのメモ帳に比べて、確かに測量野帳の背表紙は凛としている。「使用後もゴミじゃないぜ」と胸を張っている。文具の“美の瞬間”を感じてしまった。

筆者のメモ保存箱

文具には、日本には、“美とエロス”がある

 リフィル、能率手帳、ゲルインキ・ペン、測量野帳。そんな普遍的価値を誇る文具を前に、手帳評論家が言った。

 「紙とペンの間にはエロスがあるんだ」

 この言葉には全員大苦笑(笑)。確かにある。罫線の1ミリや裏抜けまで執着し、ペン先の0.0何ミリの差にこだわり、インクの減りにニヤリとして、使用後のアーカイブにまで気を遣う日本人。メーカーも渾身の技術を惜しみなく投下し、それをたった200円で実現する。作り手と使い手が文具に耽溺し、細部の美しさまで追い求める。

 文具には日本の美が宿り、エロスがにじみでる。世界中探しても、ここまで文具に美的関心を抱く国民はいないだろう。そう、日本には競争力のある産業がまだあるのだ。

 私たちは戦後、欧米の文化や商業、技術を熱心に取り入れ、経済成長を成し遂げてきた。自動車、ケミカル、アパレルしかり。衣服は“洋”服と言うぐらいだし、住宅も気密性を高めた欧米仕様。立ち食いのハンバーガーもファミリーレストランも、カフェもみんな外国からやってきた。チェーンストアもフランチャイズもマーケティングも同じ。食べ方・住まい方・仕事のやり方といったライフスタイルを導入して国内市場を作り、再輸出して稼いできた。

 今の閉塞状況を打開するためには、欧米が“文化込み”で商業を輸出したように、日本も“日本的なるもの”をモノに付けて輸出するべきではないか。日本的なるものの1つが“美・エロス”である。フェチなるモノ心。モノだけではダメ、モノの愛しかたも一緒に付けたい。

文具フェチ込みで輸出しよう

 具体的には「文具王や手帳評論家を輸出」するのがいいかもしれない。文具王が中国各地で技の美を語る。手帳評論家がエロスを語る。美・エロスの語りに中国人は圧倒されだろう。影響されて中国現地の“文具王”たちが育てば、日本の美・エロス商品も語られ、売れる。精密文具が模倣され、製造業がレベルアップし、顧客もレベルアップする。日本の市場じゃないですか、それ。

 すでに成功例はある。例えば資生堂は、中国へ美容部員を輸出し“肌フェチ”を育てて成功している。世界でも群を抜く“日本人のフェチなライフスタイル”込みでの輸出戦略。成熟した市場だからこその競争力が日本にはある。

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